いったいこの国では、こんなことがいつまで繰り返されるのだろうか。
《赤いキャップが日本の国旗に見える》《山のイラストが富士山にそっくりだ!》《売国奴だ》そんな言いがかりとしか言えないウワサが広がり、中国で不買運動の渦中にあるのが、中国の大手飲料メーカー「農夫山泉」の製品だ。「農夫山泉」の創業者・鐘会長は、資産総額が9兆4500億円といわれる、「中国一の富豪」。
ところが、同社のペットボトルが“日本的”だとして、SNSで大バッシングされ、結果、現在、中国のSNS上には製品を便器や台所など、至る場所に捨てられる動画が連日アップされる事態になっている。中国の事情に詳しいジャーナリストが語る。
「『農夫山泉』は創業者の鍾氏が築き上げ、いまや中国の『国民的ミネラルウォーター』と言われるブランドで、同会長はここ3年間の中国長者番付1位という大富豪です。鐘氏はかつて、宗慶後会長率いるミネラルウォーター製造販売最大手の『娃哈哈(ワハハ)』グループに勤務していたのですが、その後独立し自社ブランドを立ち上げた。以来、両者はライバル関係にあったわけですが、そんな中、今年2月に娃哈哈グループ代表の宗会長が亡くなったんです。表に出てこない鍾氏に比べ、宗氏はカリスマ経営者として公の場で発言することも多く、中国の改革・開放の時代に大きく貢献した功労者としても人気が高かった。そんなこともあり、宗氏の死をきっかけに、鍾氏や農夫山泉への反感が大きくなり、言いがかりともいえるバッシングに繋がったとみられています」
結果、今回のバッシングの道具とされたのが、ペットボトルにおける「日本的デザイン」という意味不明の言いがかりだったわけだ。加えて鍾氏の息子がアメリカ国籍を取得していることもあり、その息子が将来的に創業者の莫大な資産を引き継ぐことになるという反感もああって騒ぎが拡大したのでは、との見方も強い。
「実は中国では今年1月にも、あるブロガーが江蘇省の商業施設で、日本の国旗や旭日旗をイメージした赤い丸の飾り付けがある、と警察に通報。施設側が慌てて飾り付けを撤去する騒動があったばかりなんです。この時はさすがに主要メディアも『正常な経済や社会生活を破壊させる誹謗中傷は慎むべき』とたしなめる報道に終始しました。ただ、こういったバッシングが起こる背景については、長年の愛国教育の影響に加え、景気悪化によるフラストレーション解消のはけ口にしているのでは、との分析もあります。とはいえ極端な話、中国政府は、共産党批判でなければ、国の内外で誰をどう批判しようが、それを正す気など毛頭ない。そこが、バッシングがなくならない最大の理由なんです」(同)
今回のバッシングと不買運動により、農夫山泉は売り上げが90%以上減少。3月に入り香港証券市場における株価は約6%の下落したというが、この数字は時価総額基準の約5650億円が一瞬で消えたことを意味するという。この悲劇はいつまで繰り返されるのだろうか。
(灯倫太郎)