当然ながら大爆発の影響は、近県だけにとどまらない。噴火によって生じた火山灰は、首都圏を急襲。噴火発生からわずかな時間で、東京の空を真っ黒に覆うという。武蔵野学院大学特任教授の島村英紀氏(地球物理学)が解説する。
「宝永大噴火が起きた1707年当時、発生から2時間ほどで江戸に火山灰が降ったと言われています。仮に同規模の噴火が発生したと仮定すれば、同じように東京に火山灰が降ることになる。顕微鏡で見ると分かりますが、火山灰はガラスの粉でできていて、藁を燃やしてできた灰とはまったく別の物質です。現代では多くのものがコンピューターによって制御されているので、精密機器に火山灰が入り込めば、たちまち電気・ガス・水道などは止まります。300年前に比べ、文明が進んだ現代の方がはるかに大きい被害を受けるのは間違いない」
火山灰の厄介さについては、鹿児島県の桜島で観測にあたっている京都大学防災研究所火山活動研究センター長の井口正人氏が詳しい。桜島は今年だけでも139回の噴火が観測されている(気象庁調べ・12月6日時点)だけに、火山灰のもたらす被害を日常的にこうむっていた。
「首都圏に火山灰が降り注ぐというのは、首都圏在住の人からしたら経験したことのない世界。少なくとも電車などの交通網を止めるほかないでしょう。私の経験則では、だいたい1センチも積もれば道路が通行規制されます。想定されている富士山の大噴火であれば、首都圏では1日あれば1センチは積もるでしょうから、道路網が麻痺してしまうのは避けられない」(井口センター長)
噴火からわずか1日で、首都圏の交通機関は軒並みストップしてしまうというのだから、スーパーやコンビニなどの流通網も寸断されることに。さらにインフラが止まれば、文字通り東京は「陸の孤島」になってしまうというのだから、その被害たるや計り知れないものとなる。
「火山灰というのは、わずか1㍉積もっただけでも道路や滑走路の白線は消えてしまいます。さらに飛行機のエンジンは車のようにエアクリーナーが付いていないので、ガラスの粉である火山灰が入り込んでしまいます。そうなると、エンジン内の高温にさらされて溶けた火山灰は周囲に付着して飛行中の航空機のエンジンを止めかねない。日本中の主な空港は閉鎖されるでしょう」(島村氏)
一度舞い上がって地表に降ってきた火山灰は雪と違い、溶けることはない。地面をアスファルトやコンクリートで固められた都市部に堆積した火山灰は行き場をなくして、風が吹けば舞い上がり、大気中を浮遊する。つまり、火山灰という名のガラスの粉が、人体をむしばんでいくのだ。
毎日大勢の人々で行き交う東京では、火山灰による健康被害が長期化し、新たな社会問題になりかねない。島村氏の指摘によれば、
「過去には火山灰がたった0.1ミリ降っただけでも、ぜんそく患者の43%が症状を悪化させたという報告があります。さらに、コンタクトレンズを着けている人は、レンズの間に火山灰が入り角膜を傷つけてしまいますから、外出時にはゴーグルなどが必須になるかもしれません」
今年発表されたハザードマップによると、東京でも2センチの火山灰が積もるとの予想がなされている。コロナ禍に火山灰被害のダブルパンチとなれば、首都機能麻痺どころの騒ぎではないだろう。