ウイグル巡る中国の不買運動のウラに、愛国心を煽る「便乗値上げ」の実態

「H&M。あなたのでたらめに誰も金は払わない」――。

 スウェーデンの衣料品大手H&Mが中国新疆ウイグル自治区での少数民族ウイグル族の強制労働を懸念し、世界三大高級綿の一つ「新疆綿」の不使用を表明したことで、中国国営中央テレビなどが指弾、H&M不買運動が始まったのは先月25日のことだ。

 その後、「新疆綿」の不使用を表明した外国企業をターゲットに、中国国内では不買運動が急速に広がっている。中国問題に詳しい国際ジャーナリストが語る。

「実はH&Mが新疆ウイグル自治区に工場を持つ中国企業との取引停止を発表したのは、半年前のことなのですが、その際、中国政府は静観する構えだった。ところが、ウイグル問題をめぐり、EU・ヨーロッパ連合が中国への制裁を発表。そこで、これ以上火種を大きくしたくないとした中国共産党が、下部組織の共産主義青年団や党・政府系メディアを駆使して、ウイグル自治区問題に懸念を示す外国企業を標的に、『不買運動』という形で報復を始めたというわけです」

 現在、標的とされているのは、H&Mをはじめナイキ、アディダスなどのヨーロッパブランドが中心だが、ユニクロなど日本企業の名前も上がっている、との現地報道もある。前出のジャーナリストが続ける。

「H&Mの場合、まず中央テレビで批判し、それを受けたソーシャルメディア『Weibo』で、過去のコメントが拡散。すると、大手通販サイト『淘宝(タオバオ)』をはじめ、多くのサイトがH&M製品だけでなく、店舗の地図まで消去。彼らとしては、俺たちの悪口を言ったらお前もこうなるぞ! といういわば脅しの意味もあるのでしょうが、そんなことが平気で起こる国ですからね。名前が挙がった外国企業は、それこそ何をされるか気が気ではないはずです。ま、コロナが出たとなれば海鮮市場全体を取り壊してしまったり、列車事故が起これば列車もろとも現場を埋めてしまうのが中国。自分たちが不利になれば、ありとあらゆる手段を講じて先手を打ってくる。政府もそれを正当化するため、外圧に抵抗することこそが、愛国心や忠誠心であると囃し立てる。それが中国という国の昔からのやり方なんです」

 尖閣諸島国有化の際には、日本企業も「不買運動」の標的になったこともあるが、実は、中国政府が「外圧」を理由に、頻繁に外資系企業の不買運動を示唆するのは、もう一つの狙いがあるという。それが、国内製品の需要拡大だというのだ。

「外資系企業の不買運動が起こると、SNS上では必ず『いまこそ国内メーカーの商品を購入しよう!』といった呼びかけが起こります。つまり、愛国心を利用して、国を挙げて国産ブランドに目を向けるようアピールするんですね。ところが、そうなると、ここぞとばかりに、と便乗値上げに走る業者が急増する。結果、先月までの価格が平気で1.5倍くらい高くになったりして、マインドが外資系ブランドに戻ってしまう……それの繰り返しなんですね。ですから、中国に進出する外資はそのあたりも踏まえて、中国人と付き合い、運営していかなければなりません。気苦労が絶えないはずです」
 
 さて、今回の不買運動の行方は……。

(灯倫太郎)

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