終了したばかりのドラマ「日本沈没」のクライマックスは富士山の大爆発だったが、現実世界でもいつ大噴火が起きてもおかしくない状況だという。震度5クラスの地震が相次ぎ、小笠原諸島沖でも海底火山が活発化している日本列島。戦慄シミュレーションの結果では、恐るべき阿鼻叫喚の地獄が待ち受けていた─。
「富士山が噴火すれば、火口の位置によっては、溶岩流が東名高速道、あるいは東海道新幹線の線路まで流れかねません。下手をすれば、日本は東西分断されてしまいます。物流が止まり、食料危機のパニックに陥る可能性も十分考えられます」
こう警鐘を鳴らすのは、武蔵野学院大学特任教授の島村英紀氏(地球物理学)だ。
12日に最終回を迎えた小栗旬(38)が主演したドラマ「日本沈没」(TBS系)では、日本を巨大津波が襲い、富士山が荒々しく大噴火する情景が映し出された。未曾有の危機を描いているが、実はこの話、単なるドラマでは済まされないほど現実味を帯びているのだ。島村氏はこうも続ける。
「富士山は平安時代、毎年のように短いスパンで噴火していました。しかし1707年の宝永噴火以来、実に300年以上噴火していません。世界の噴火例を見ても、300年以上経過して起きた噴火は大きいものが多く、富士山の場合も大噴火になることを念頭におかなければならないでしょう。正直、かなり心配しています」
富士山の大噴火が現実となった時、果たして日本はどうなるのか。富士山からはるか離れた東京では、直接的な被害をこうむるとはにわかには考え難いが‥‥。島村氏は一笑に付して警告する。
「とんでもない。富士山は山頂の火口から噴火すると考えるのは大間違いです。極端に言えば、山の麓から噴火してもおかしくない。正直、どこから噴火するかは専門家でもわからないのが現状なのです。国が作成したハザードマップは、被害が起こりうる最大限の範囲で予想されており、溶岩は神奈川県相膜原市や小田原市まで流れると指摘しています。最近の例ですと、15年の箱根山噴火の際には、横浜まで火砕流が流れたケースが記憶に新しい。富士山が噴火した際には、八王子や立川にまで火砕流が流れ出る可能性もあるのです」
富士山を擁する静岡県や山梨県のみならず、その被害は、首都圏を直撃するというのだ。
島村氏のシミュレーションを裏付けるかのように、今年の3月に17年ぶりに改定された「富士山ハザードマップ」によれば、想定される火砕流噴出量は、240万立方メートルから1000万立方メートルへと、実に約4倍に増えている。
そればかりか、これまで44カ所にとどまっていた富士山の噴火口は、252カ所と激増しているのだ。中には、病院や老人ホームともごく近いところに存在する噴火口すらあるというのだから、我々が思っている以上に、富士山大爆発の脅威は身近に迫っていると言えるだろう。
京都大学防災研究所火山活動研究センター長・井口正人氏が、火砕流の危険性について解説する。
「火山噴火の噴出物として気をつけなければいけないのが火砕流です。火山灰と火山礫にガスが混ざって流れやすくなります。普通の噴煙は軽いので大気中を上がっていくのに対し、火砕流は重いので下に流れ下ってきます。スピードが速くて、時速100キロメートルほど。かなり高温で、800度くらいになると思います。火砕流が起きてから逃げるのでは、まず間に合わないでしょう」
91年6月、長崎県・雲仙普賢岳の火砕流では、実に43人もの犠牲者が出たのをご記憶の方も多いだろう。つまり、火砕流とはスピード超過の暴走車のようなもの。逃げ切れると思ったのも束の間、あっという間に飲み込まれてしまうだけに、近隣住民はまず、噴火口からできるだけ遠くに逃げることが先決なのだ。