いよいよ、 15カ月間に及ぶ戦闘に終止符が打たれる日も近いのだろうか。
5月9日に「赤の広場」で開催された、ナチスドイツへの勝利を祝うロシアの戦勝記念日。演説に立ったプーチン大統領はこの戦争を「特別軍事作戦」ではなく「本物の戦争」という表現に変え、改めて市民に「戦う意義」をアピールした。
だが、パレードを含め、例年では考えられほどのしょぼすぎる演出に市民のテンションも高揚しない。それどころか成果を上げられないプーチン政権に、「そもそもなぜこの戦争を続けなければならないのか」といった“そもそも論”が広がり、ネオナチ政権を倒すため、ドンバス2州の住民を守るため、といったレトリックがもはや通用しない状況に追い込まれている。
そんな中、一時は戦線離脱を宣言するも、激戦地バフムトの最前線に留まり戦闘を継続するとしていた民間軍事会社「ワグネル」代表のプリゴジン氏がSNSを更新。要求していた弾薬が10%しか届いていないとして、「我々はぬけぬけと騙された!バフムトを離れたら母国への反逆とみなす、だと! 弾薬が無ければ我々は離れる。本当に母国を裏切っているのは誰なのか!」と怒りをあらわにする映像がアップされ、改めて正規軍との内輪揉めが浮き彫りになっている。
「戦争をする際に最も重要なのは、なぜこの戦争をしなければならないのかという大義。ところが劣勢に次ぐ劣勢で、もはや『ドンバス2州の住民を救出する』という大義が揺らぐさなか、今度はクレムリンでドローン爆破事件が起きてしまった。まだウクライナによる攻撃と断定されたわけではないものの、この一件で国民の気持ちの中に、もはやモスクワも安全な場所ではなくなったという危機意識が生じてしまった。このまま戦争を続ければ、当然、オンライン召集令状による国民総動員もあり得るでしょうから、今後、ロシア国民の間で『早く戦争を終息させるべき』という声が高まることは必至でしょうね」(ロシア情勢に詳しいジャーナリスト)
さらに、戦果を出せないどころか、10日にはロシア軍の最精鋭部隊である第72自動小銃旅団がバフムトで壊滅に追い込まれて撤退したというニュースが伝わり、国民の不安をさらに募らせているというのだ。
「これはウクライナ軍第3強襲旅団が声明で明らかにしたもので、戦闘は幅3キロ、縦2.6キロのウクライナ領土内で行われ、結果、バフムトでロシア第72旅団の第6大隊と第7大隊はほぼ全滅したとのこと。バフムトに戦闘員を投入するワグネルのプリゴジン氏も『72旅団がものすごい勢いで戦場から逃げ出した』とロシア系メディアに吐き捨てています」
大義を失った戦争を、プーチン大統領は一人よがりな思いだけで、今後いかにして動かしていくのか…。敗戦の足音に、国民のプーチン離れが加速していくことは間違いない。
(灯倫太郎)