入門マニュアル「シニア再就職のリアル」〈ポスティング〉(1)3000枚配って1万円の日当

 かつて隆盛を誇った新聞や雑誌など紙媒体が勢いを失っている今でも、ポスティング業界は廃れていない。マンション、介護サービス、出前、廃品回収などチラシのご用命は多種多様。果たして堅実に稼げる職業なのか。チラシ配りの仕事をチェックする。

 自宅の郵便ポストに溜まるチラシの山。歓迎されず〝資源ごみ〟となることが多いが、最近は重宝されるケースも増えている。

「コロナの影響で家にいる時間が増えたからだろうな。ピザや寿司なんかの飲食店の出前、それと家具・家電の廃品回収業者のチラシの需要が増えているね」

 こう語るのは、日に焼けた肌とスポーツ刈りが印象的な石垣徹さん(51=仮名=)。ポスティングスタッフ歴31年の超ベテランだ。まだ残暑が続く9月中旬、1日の労働を終えて立ち寄った安居酒屋で、生ビールの中ジョッキを片手に取材に応じてくれた。

「はぁ〜、汗かいて働いたあとの1杯は沁みるぜ。今日の担当は西東京地区だった。釜めし屋、ピザ屋、引っ越し屋、老人向けの宅食会社の4社を同時に配る、いわゆる〝併配〟の日。だいたい3000枚を配って1万円の日当だったよ。まぁ、単価はチラシによって決められるんだけど、今回は4枚分で3.3円だったから悪くないわな」

 みるみる1杯目を飲み干すや、次のジョッキを注文して落ち着くと、ポスティングという仕事の1日の流れを説明してくれた。

「仕事は大きく『出勤型』と『在宅型』の2つに分けられる。出勤型の場合は7時〜9時に事務所に出勤するパターンが多いな。俺の場合は23区内にある事務所に出勤。そこでチラシと配る地域の地図が配布されるんだ。自前のガラガラと呼ばれるキャリーカートにチラシを積んで、余った分をリュックに入れたら準備完了。まぁ、最近はボックス付きの原付で配るのが主流になりつつはある。俺は事故るのが怖いから、永遠に歩き派だけどな(笑)」

 そのまま担当エリアまで電車あるいは原付で移動。1日に配布可能なのは2000〜6000枚だという。余ったチラシは事務所まで返却しに戻らなければならないため、より稼ごうと欲張って、多く持ち出すのも考えものらしい。

「在宅型も、外に出てチラシを配るのは同じ。ただ、事務所にチラシを取りに行くのではなく、自宅に指定された枚数のチラシが届けられるスタイル。自宅の近所が担当地域になって、移動の手間がかからないんだ。配る枚数が制限されているけど、単価が高めに設定されることが多い。こっちのやり方だと、主婦が家事や育児の合間に効率よく稼いでいるな」

 ただし、いずれの働き方にしても、天候に左右されることに変わりはない。

「雨が降ると作業効率は80%ダウン。午前中にいいペースで配れていても、午後からの雨で1枚も配れない日はザラにある。広告主からの注文もあって、濡れたチラシを投函するのはNG。そんな日は2000〜3000円にしかならないんだよ。雨天作業が全面禁止の会社の場合は休みになって、収入は0円だ」

 もちろん、休業補償などというものはない。会社から仕事を委託される個人事業主の扱いだからである。

「労災が下りたという話は聞いたことがない。マンションの階段から転んで骨折した時も、自分が加入している国民健康保険を使って病院に行かされたっけな。たとえ働けなくなっても、会社員どころかアルバイトでもないから疾病手当が出ないんだ‥‥」

 とにかく、日々の安全を心がけているそうだ。

*入門マニュアル「シニア再就職のリアル」(2)に続く

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