入門マニュアル「シニア再就職のリアル」〈リフトマン〉(1)段ボールを巨大なパズルのように…

 しばしば〝産業の血管〟とたとえられる物流業界。その根幹を下支えするのがリフトマンだ。手足代わりのフォークリフトで倉庫内を縦横無尽に動き回り、パレットに荷物を積む作業は巨大なパズルゲームの如し。まさに体と頭脳をフル回転させる、ガテン系労働の現場はどうなっているのか。

「ピーピーピー」

 世間の昼休みが終わった13時過ぎ。けたたましいバックブザー音が倉庫内に鳴り響く。場所は関東地方の高速ICから車で10分に位置する物流倉庫。約1万5000平方㍍の敷地で、6台のフォークリフトが稼働していた。その中でもひときわテキパキとしたハンドル捌きを見せるのが勤続25年の大ベテラン、田中富雄さん(54)=仮名=だ。休憩時間の1コマに、タバコを吹かしながら語ってくれた。

「俺の1日は発注ごとの梱包を作ることからスタートする。例えば『〇〇商事・サミット××倉庫』から『缶酎ハイ350ミリリットル』×8ケース、『日本酒3リットル』×9ケース、『日本酒2リットル』×6ケース‥‥と続けて注文書が来る。それに合わせて、倉庫内の棚に保管してある商品の段ボールをパレットに積み上げるんだ。とはいっても、ただやみくもにやってはならん。荷崩れを起こさないよう、正方形ないし長方形のバランスを考えなきゃならんのさ」

 実に段ボールのサイズは多種多様。長さの異なる「ジェンガ」を組み立てるような難解な作業となる。

「いちばん楽なのは、〝段切り〟といって、同じ段ボールのみでパレットの1面が平らに埋まるパターン。ウチらの場合は『缶酎ハイ350ミリリットル』なら8箱、『日本酒2リットル』なら16箱単位になる。それが1箱でも過不足ができると凹凸が生じてしまう。残念ながら、プラス1箱マイナス1箱で発注されるケースばかりなのよ」

 ちなみに、棚に保管された段ボールはパレットに積まれている。それを地上までフォークリフトで降ろすが、梱包用パレットに積み込む作業は手作業となる。

「まぁ、肉体労働には違いないな。あと、注意しなきゃならないのは『誤出荷』という、文字通り間違った商品を梱包してしまうミス。同じブランドの酒でも、アルコール度数やサイズの違うものが数種類ある。その全てが違う形の段ボールに梱包されていればミスを防げるだろうが、実際には同じパッケージが印刷されたものがザラ。度数が『20度』『25度』あるいは、頭に『極上』が付くものとか。隅に小さく書いてあるだけだから、何度も痛い目にあわされた」

 さらに困るのは注文の品が倉庫内にない場合だ。いわゆる〝欠品〟で、待ちぼうけを食らうケースがある。

「仕事をスタートする段階で、足りない商品を発注しなくちゃならない。ウチで扱っている商品は、みりんや日本酒の調味料を含めると1000種類以上になる。その全てを置いておくスペースはないんだ。中でも日本酒の樽酒なんかはかさばるだけに、注文が入ったタイミングでそのつど発注が必要。納品を待たないといけないから、到着するまで不足のある梱包は作れない。渋滞で納品が深夜になって、帰りが翌朝になったこともあったな」

 こう言って紫煙をくゆらせ、苦笑いを浮かべた。何不自由なく買い物ができる生活インフラの裏側には、人知れぬ苦労が隠れているのである。

*週刊アサヒ芸能11月17日号

マネー