入門マニュアル「シニア再就職のリアル」〈ビル設備管理人〉(3)優良求人が集まる意外な所

 さて、同職に就くまでの道のりも説明しておこう。シニア向け転職サイトの求人に応募するのが最短ルートだが、最良の選択肢は別にあるようだ。都内の官公庁舎に3年勤務する、関根俊彦さん(60)=仮名=が語る。

「人生で初めて利用したハローワークで、条件をよくするために公共の職業訓練校を経由するよう強く勧められました。新卒から30年以上中堅出版社に勤めていましたが、転職に使える資格やスキルがまったくなかったからです。本当はプログラマーへの華麗なる転身を遂げたかったのですが、窓口のお姉さんから『もう手遅れです(笑)』と。どう勉強して資格を得ても、職種によってシニアの働き口はないらしい」

 そこで提示されたのは「介護」「園芸」「ビルメンテナンス」の3つの高齢者コースのみ。職安職員の「ビルメンは高齢者の男性人気ナンバーワンです」の一言でコースを決めたという。

「コースごとに定員があるので入学試験をパスする必要はありました。中学校卒業レベルの問題が出ると聞いて、高校受験の参考書を買いに行った。特に数学は、ほぼ解き方を忘れていたから、復習して正解でした」

 無事に合格して足を踏み入れた世界は、98年に公開された映画「学校Ⅲ」(松竹)の舞台となる職業訓練校そのものだった。

「大竹しのぶや小林稔侍が勉強していた教室のイメージと同じでした。元金融トレーダーや大手半導体メーカーの技術者みたいな高給取りから町工場のオヤジなど、映画と同じでクラスメイトの経歴は様々。そのほとんどが失業者なのに明るい連中ばかり。人生の黄昏時に再び青春をエンジョイしましたよ。残念ながら、同世代の男しかいませんでしたけどね」

 作業着と教科書代は自己負担ながら、ほとんどの高齢者コースの授業料は無料。半年の間に「2級ボイラー技士」「危険物取扱者乙種4類」「第三種冷凍機械責任者」「第二種電気工事」のいわゆる〝ビルメン4点セット〟の取得に励んだという。

「やはり理系科目の理解は文系の私には難儀でした。ただし、択一式の試験問題の7割は過去問から出題されます。内容を把握せずに丸暗記して、残りの3割はえんぴつを転がしてマークを塗りつぶせば合格できた(笑)。そんないい加減な考えだったからか、第二種電気工事だけは実技で落ちてしまいましたが‥‥」

 それでも東京五輪前の建設ラッシュのおかげで就職先に困ることはなかった。

「テレビCMを流している大手に就職できました。内定後すぐに出勤を求められたので、卒業1カ月前の〝寿退学〟となった。実は、ビルメンの優良求人は職業訓練校に集まる傾向があるようで、回り道するのが1つの手なんです」

 急がば回れ。第2の人生を前に職業訓練校へGO!

*週刊アサヒ芸能10月27日号掲載

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