入門マニュアル「シニア再就職のリアル」〈ビル設備管理人〉(1)3時間おきに30分だけ労働

 シニアの再就職先として、根強い人気があるのはビル設備管理人だ。とはいえ、その仕事内容を具体的にイメージできる人は少ないだろう。文字通り、施設内にある機械設備の点検から害虫駆除に至るまで担当業務は広範囲。紛れもなく、何気なく過ごす快適な空間を守る「縁の下の力」持ちなのである。

 なんでも、シニアの再就職に持って来いの職種がビルメンテナンスだという。その理由を勤務歴8年の藤田大和さん(69)=仮名=が語ってくれた。

「商業ビルや官公庁舎内の1室が職場になる。エアコンのある室内で1日の大半を過ごすから、夏の暑さや冬の寒さに苦労することはない。押しなべて、体力を求められる場面が少ないのも老体向きだよ」

 藤田さんが働くのは、大手インフラ系企業が運営する商業ビル。勤務時間は、8時〜18時までの早番と12時〜22時までの遅番の2交代制だ。主な業務内容は3時間おきの巡回である。

「主に電気設備、空調設備、給排水設備の3つを点検する。例えば、電気設備は屋上にある変電設備『キュービクル』の電圧をチェック。『検針』と呼ばれる作業で、検針盤の針を目視して電圧に異常がないか確認するの。異常があればすぐに専門業者を手配して何かしらの応急処置をしなければならない。同じように各階の空調のポンプや水道メーターもチェックするわけだ」

 地下1階、地上5階建てのビルを1回りするのにかかる時間は30分弱。何もトラブルがなければ次の巡回まで待機となる。

「これが丸の内にあるような、20階とか30階にわたるフロアの大型ビルになるとヘトヘトだよ。1回りして休憩するのも束の間で、すぐ次の巡回の時間になるからね(笑)。その点、私の職場はラクな部類。地下にある4畳半の和室と8畳の洋間が併設された部屋で、快適に過ごしているよ。せんべいをかじりながら、新聞を隅から隅まで読めるぐらい暇なんだから」

 そんなぬるま湯体質の現場を任されても、給料は大型ビル勤務と同水準で支給される。

「週5日勤務で手取りは月17万円くらい。休憩ばかりなのに、大卒の新人ぐらいの月収になるよ。でも、月曜〜日曜の中での5日勤務をたった3人で回しているから、連休はもらえないんだ。時間を持て余している老人は気にならないかもしれないけれど、中高年のまだ働き盛りの世代には酷な仕事だよ。とても家族を養える待遇じゃないだけに、30〜40代の独身率が異常に高い」

 あえて念を押すが、あくまでも〝シニア向け〟の職業なのである。

*週刊アサヒ芸能10月27日号掲載

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