入門マニュアル「シニア再就職のリアル」〈マンション清掃員〉(2)年下の管理人が命令口調で

 1人で黙々とできる仕事ではあるが、実は、時に天敵となりうる〝同僚〟がいるという。

「意地悪な管理人に当たったら最悪だよ。残念ながら、ウチのマンションの管理人も傲慢無礼な爺さんだった。こっちが管理会社の下請けにあたる清掃業者だからか、露骨に人を見下す態度を取ってくるんだ。年齢は2コ下のくせに、タメ口で命令口調。気に入らないことがあれば『使えねぇな』なんて汚い言葉で罵るんだから」

 それでも、マンション清掃の仕事を始めてから半年後、些細なきっかけでその関係性に変化が訪れる。

「ある日、出入りの郵便局員から管理人を呼ぶように頼まれたから、管理人室まで呼びにいったの。そしたら『郵便局員なら勝手に入ってくりゃいいだろ! なんだよ、いちいち来るなよ〜』と不機嫌そうに文句垂れやがった。この時、積もりに積もった怒りが決壊して『呼ばれたから呼んだだけじゃねぇか!』とドスの効いた声でブチギレてやったんだ。1度反撃したおかげで、その後は人が変わったようにおとなしい態度に激変したよね(笑)」

 蔵元さんが通常勤務しているのは、セキュリティ万全のいわゆる〝高級マンション〟に分類される。それだけに、共用部分のラクガキなど「集合住宅あるある」の暗部はほぼない。ところが、応援で訪れた別のマンションで、住人のモラルのあまりの違いに驚愕したという。

「朝出勤したら、2階の共用廊下に住人たちが集まってザワついていた。その視線の先には、バナナ状の立派な“大”のほうが落ちていたんだから。すぐに処理したけど、聞いたら何回か繰り返している常習犯だったとか。のちにわかったんだけど、住人の1人が犯人だった。監視カメラがないから、やりたい放題だったみたいだね」

 同様に、国際化の波に飲み込まれたマンションも特有の問題を多く抱えているという。

「ペット可で外国人の多いマンションは地獄だね。中にはペットを放し飼いにしているのか、小学校のウサギ小屋みたいな臭いが部屋から漏れて、フロア一帯に漂っているケースもあった。なるべく、息を止めながら作業するしかなかったよ」

 とはいえ、悪い話ばかりではない。この仕事、規則正しい日常の生活リズムを作るのに一役買ってくれているというのだ。

「もともと、自分はライター業だったこともあって、昼も夜もない不規則な生活だった。それが、年取って清掃の仕事を始めたおかげで、きちんと朝起きて夜寝る生活に変化したんだよ。しかも、マンションの階段を上り下りするから、いい運動にもなる。統計はないけど、この業界で働くシニアの健康寿命は長いって」

 まさに〝一石三鳥〟。無理なく健康に稼ぐには、持ってこいの仕事かもしれない。

*週刊アサヒ芸能11月3日号掲載

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