入門マニュアル「シニア再就職のリアル」〈ビル設備管理人〉(2)管理室に女を連れ込んで…

 聞くとラクな仕事のようだが、一事が万事、そんな日ばかりではないようだ。

「もちろん、トラブルが発生したら忙しい。しかも、遅番で1人きりの時に限って発生するから、パニックになるんだ。中でも苦労させられたのは、トイレの水漏れ。巡回中、テナントに入っているレストランの女子トイレでウエイトレスさんがラバーカップ片手に悪戦苦闘していた。代わって詰まり口を吸引したら、ジョバーッと水が流れる音がしたから『効いてるな』とほくそ笑んだんだけど‥‥」

 ほっと一安心したのも束の間、階下から「うわぁ! 何だ、こりゃ〜!」と叫び声が聞こえてきたという。

「レストランは2階だったんだけど、1階にある従業員のロッカールームの天井から水が滴っていたんだ。すぐさま、オーナーと水漏れ業者に連絡。応急処置として、水漏れ箇所にバケツを設置したよ。翌日、業者が胃カメラのような装置を配管に通して原因を調べたら、女性の生理用品が詰まっていたってね。そこでせき止められた水が一気に流れ出て、水漏れにつながったみたいだ」

 トラブルは設備のみならず。時には〝招かれざる客〟と相対する場面もある。

「ゴキブリが出没するたびに殺虫剤を持って駆け付ける。いちばん厄介なのがクマネズミ。ドブネズミと違って、配線を噛みちぎってしまうからね。フンなんかの痕跡が見つかるだけで大騒ぎになるよ」

 気楽に1人で見回りすればいいだけかと思いきや、人間関係に苦労するパターンもある。神奈川県のオフィスビルに2年勤める佐野泰史さん(55)=仮名=は、職場の独特な雰囲気に馴染めずに転勤を余儀なくされた。

「自衛隊出身の上司のイジメに病んでしまいました。自衛隊を退職する時に職業斡旋があるらしく、私以外の職場のメンバーが同じ部隊の人間ばかりでした。その上司は自衛隊時代から上官だったらしく、みんな、逆らえない。その機微を理解せずに、上司の間違いに意見したら徹底的な爪弾きが始まりました。連絡事項の共有はもとより、待機室の机やイスが外に出される始末で‥‥。とうとう1カ月で、朝、ベッドから起き上がれなくなり、会社に異動願を出して別のビルに移りました」

 反対に、先の藤田さんは良好な人間関係に恵まれてきたと話す。

「レストランのスタッフと仲がよかったおかげで、たった250円で豪華賄いを食べさせてもらえる。毎日、ローストビーフやスズキのポアレとか贅沢な洋食を食べて、毎月開かれる新メニューの試食会にも誘ってもらえるんだよ。その時はワインでも日本酒でも飲み放題。実は、これも仕事の一環だからね。テナントの従業員とコミュニケーションを取ることで、ビルの不調にいち早く気づくことができるってわけ」

 しかし、男女の仲を深めすぎる問題児も現れるようで‥‥。

「前々任者が管理室に掃除のおばちゃんを連れ込んで〝ヨロシク〟やってクビになったらしい。職場恋愛は禁止ではないけど、さすがに業務時間にハッスルしたのはまずかった。カラダの関係はもとよりセクハラも当然NGだからね。入社ガイダンスでは口酸っぱく注意されるよ」

 下半身も制御できないようなら、責任あるビル設備の管理など任せられるはずもない‥‥。

*週刊アサヒ芸能10月27日号掲載

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