スポーツで他国に貶められたら報復可能!中国で成立した「改正体育法」とは?

 西側諸国によるロシアへの制裁を非難する中国が、今度は自らが国際スポーツの場で他国から主権を損ねられた場合には、対抗措置を取ることができるとする法律改正を行ったという。

「中国では立法機関に当たる全国人民代表大会(全人代)の常務委員会が6月21〜24日にかけて開催され、そこでいくつかの法改正を行う中、『体育法』という法律の改正も行われました。それによると、例えばスポーツの国際大会の場で中国の主権や安全保障、開発の権利、威厳が損ねられた場合に対抗措置を取ることが可能とのことですが、具体的にどんなことなのか、あるいはどんな対抗措置を取るのかについては不明です」(中国事情に詳しいフリージャーナリスト)

 スポーツにおける中国のトラブルと言えば、プロテニスプレーヤーの彭師(ほうすい)さんが、中国共産党の元高官から受けた性被害を告白した後、人目から姿を消してしまった問題や、北京五輪の開幕式で聖火の最終ランナーの1人にウイグル族の選手を起用して他国から“演出”と批判されたこと、スケートのショートトラックでの数々の不可解判定などが思い起こされる。

 その度に人権無視、国威発揚、政治演出などと批判を浴びたが、中国は「内政干渉」と聞く耳を持たない。つまりはこういったトラブルがあった場合に、何らかの対抗措置を取ることに関して、自国の法律で定めて「国内法で適法」と言うための正当性を持たせておこうということなのだろう。

 ではなぜこの時期なのかという疑問が浮かぶが、むしろこの時期だからといった方が正しいようだ。

「アメリカで昨年12月に成立した『ウイグル強制労働禁止法』が、この6月21日から施行されました。アメリカは過去にウイグル産の綿製品やトマトの輸入を禁止したことがありますが、この法律によって今度は、新疆ウイグル自治区が関わる原材料や部品がわずかでも含まれていれば、強制労働がなかったことを証明する必要が生じます。今回の体育法の改正自体が、これを念頭に置いた対抗措置ということなのでしょう」(同)

 ウイグル法は日本企業にも大きな影響を与えかねない。過去にアメリカの税関当局が、同じ理由でユニクロのシャツの輸入を差し止めたことがあるからだ。中国と付き合いのある日本企業は、より厳格に取引の再考を迫られることになる。

 またウイグルだけではない。主権や安全保障、果ては威厳にまで対象は及ぶので、中国国内の人権問題、チベット、香港、台湾問題など、中国の国内外で意見が対立するあらゆる政治問題も対象になる。

「19年にはアメリカプロバスケットNBAのチームのGMが、当時香港で連日生じていた市民のデモを支持、21年にもやはりプロバスケット選手が、チベット問題で習近平を『残忍な独裁者』と呼び、中国国内で批判が高まったことがあります。これに対して中国は国内メディアが試合中継を取りやめるという行動に出たので、今回の法改正も具体的にはこういった措置を取ることが想定されます」(同)

 要は他国が口を出したらそれなりの報復を行うということなのだが、もし台湾に侵攻ということになれば、派手な報復合戦がスポーツの場でも行われることになる。

(猫間滋)

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