藤井聡太「竜王戦」で駆け上がる「八冠ロード」(1)終盤の逆転劇で自信を深め…

 かつて1勝6敗と辛酸を嘗めた「天敵」を相手に天才棋士が挑んだ最高峰の「竜王戦」。10月8日から臨んだ第1局では、中盤の劣勢をはねのけて勝利を飾った。羽生善治九段が七冠を制して25年、これまで「10代九段」「三冠」と、数々の最年少記録を塗り替えたスーパースターが、さらなる偉業に乗り出す。

 藤井聡太三冠(19)にとって、16年当時、現役最年長の加藤一二三九段(81)とのプロ初対局が、今回挑戦する竜王戦の予選でもあった。まさに今、デビュー戦ゆかりの将棋界最高峰のタイトルに手をかけようとしている。

 昨年7月に「棋聖」を奪取、17歳11カ月で史上最年少タイトルホルダーとなった藤井だったが、そこから1年余の活躍ぶりは、デビュー時の藤井フィーバーを超える輝きを放っている。

「初タイトルの翌月には、二冠目となる『王位』を獲得。今年はその2タイトルを防衛しつつ、7月から9月にかけて3勝2敗のフルセットで叡王戦に勝利。史上初の10代三冠を達成しました。四冠を目指す竜王戦では、王位戦防衛、叡王戦挑戦と同じく、豊島将之竜王(31)との対局になります」(専門誌記者)

 くしくも3つのタイトル戦が連続して「藤井─豊島」のカードになったことは、決して偶然ではない。将棋界の8大タイトルは昨年来、藤井、豊島を含む4人の棋士が独占しており、いわば「四天王時代」が到来していたからだ。

「2人に加え、三冠を保持する渡辺明名人(棋王・王将)=37=と、タイトル3連覇中の永瀬拓矢王座(29)です。ただ、中でもここ最近の藤井三冠の強さは群を抜いている。ともすれば、近い将来『藤井一強』時代が到来しそうです」(専門誌記者)

 その根拠となるのは、先述した今年の3つのタイトル戦の内容である。王位戦では第5局の立会人を務めた、深浦康市九段が解説する。

「棋聖戦は、前年に藤井さんにタイトルを奪われた渡辺名人が挑戦者となりましたが、5番勝負を藤井さんが3連勝で一蹴、内容的にも圧勝でした。リターンマッチに気合が入った渡辺さんを、藤井さんの充実度が上回った、という格好でした。王位戦7番勝負で戦った豊島竜王は、それまで1勝6敗で『天敵』とみられていた相手。1局目は挑戦者の豊島さんがほぼ完勝し、『やはり分が悪いのか‥‥』という雰囲気も漂っていたのですが、その後、2局目、3局目は終盤の逆転もあり連勝したことで、自信を深められたように見受けられました」

 この2戦に続いて叡王戦の第1局が開催されたのだが、そこでは藤井の将棋が驚くほど一変していたという。

「豊島さんの将棋は、序盤から積極的に主導権を奪いに前へ前へと行くスタイルで、藤井さんもそこで圧倒されていた。ですが、逆に藤井さんの方が序盤から未知の局面に挑戦したりと、豊島さんのお株を奪うかのような積極的な攻めを見せていたんです」(深浦九段)

 その結果が、史上最年少での三冠。これまでなかなか勝てなかった豊島を相手に白星を挙げ、番手勝負で先行できたこの第2・3局こそが、藤井がさらに進化するターニングポイントだったのだ。

 そこで竜王戦である。先の専門誌記者が次のように語る。

「19年に竜王と名人という最も格の高い2つのタイトルを同時獲得したこともあり、将棋界では『豊島時代』が来るとみられていました。ただ、藤井の台頭でその機運は高まりきる前に終わった感がある。豊島が無冠、藤井が竜王を獲得して10代四冠ともなれば、将棋界の勢力図は一気に新局面を迎えます。羽生善治九段(51)以来の全タイトル同時保持を目指し『八冠ロード』へと突入することになるでしょう」

*「週刊アサヒ芸能」10月21日号より。(2)につづく

ライフ