藤井聡太“最年少四冠”は伝説の大名人を超えた【2】「対人間」からAIの境地へ

 果たして、底が見えぬ藤井竜王の強さとは。前出・屋敷九段が実戦で対局した感触を明かす。

「実際に指した感じでは、『受け』の強さを感じました。もちろん、『攻め』も鋭いのですが、難しい局面での藤井さんは、じっくりとした手を選ぶ傾向があります。攻め込まれた時に上手くかわす、あるいはガッチリ受けながら反撃する。そのため、よほど上手く攻めないと最後にはこちらがやられてしまう。しかも、どの戦型にも精通され、死角は相当ないと言っていい」

「受け」の巧者といえば、昭和の大名人・大山永世名人の顔が思い浮かぶが‥‥。

「もちろん指す将棋のタイプは違うが、中盤の組み立て、勝ちを焦らずじっくり受け止めるところなどは大山康晴先生にも共通している。いずれにしても、昨年までは最年少タイトルを獲るかと騒がれていたのに、あっと言う間にタイトルを4つ奪取。19歳で竜王、四冠は大変な功績に間違いありません」(屋敷九段)

 大山名人に比肩するどころか、凌駕すると感嘆の声を上げるのは、深浦康市九段だ。

「当時とはタイトル数が違うので単純に比較することは難しい。ただ、藤井さんはすでにプロ棋士5年のキャリアがありますが、19歳というのは奨励会にいてもおかしくない年齢です。歴代の四冠達成者と比べても、10代での四冠は大山先生でもかなり驚かれるのではないかと思います。この若さでその高みに行くということは、直接対局しても勝ち越すのではないでしょうか」

 振り飛車党の大山永世名人vs居飛車党の藤井竜王─。時空を超えた番勝負は将棋史に残る名局となるに違いない。

 対局ごとに解説者をアッと驚かす「鬼手」を放つ藤井竜王。「新手一生」を掲げ、革新的な棋譜を残した升田幸三名人(91年没、享年73)と似ている?

「藤井さんの場合はちょっと質が違うと思います。例えば、羽生さんは形勢が悪くても土壇場で逆転する『羽生マジック』が有名でしたが、人間を対象として、相手の嫌なところを追求していくのがこれまでの四冠だった。ところが、藤井さんは相手の弱点など捉えず、ひたすらAIのように局面をジッと見ている。そして形勢が良くなったところで、そこを広げて攻め込むのです」(深浦氏)

 将棋盤の向こうの生身の人間よりも「AI」の導く叡智を求めるのが、藤井流将棋の境地なのか。

*「週刊アサヒ芸能」12月2日号より【3】につづく

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