エンゼルスの大谷は投打の二刀流で言うことなしの成績やった。残念だったのは相手の四球攻め。ホームラン王争いは2本差の46本に終わったけど、普通に勝負してくれてたら50本も狙えたはず。相手は優勝争いやプレーオフ争いがかかっていたとしても、勝敗にあまり影響のない場面でも申告敬遠されることがあった。東洋人にキングを取らせたくないための嫌がらせに思えるほどやった。大谷の打撃を楽しみに見に来ているファンのためにも、もっと勝負してほしかった。
大谷は不満こそ表情には出さなかったけど、26盗塁という数字にプロの気概を感じた。
「歩かせたら盗塁で二塁まで進んでやるぞ」という素晴らしい姿勢。僕も現役時代、死球のあとは「そっちも痛い目にあわせてやるぞ」とムキになって走ることがあった。大谷は来年も、もっと走ってやればいい。最初はケガするのが心配やったけど、スライディングもうまいし、その心配はない。スタートを切る時も無駄な力が入ってないし、ストライドが大きい走りはほんまに速い。かつてバリー・ボンズらが達成した「40本塁打&40盗塁」(フォーティ・フォーティ)も十分達成可能やと思う。
盗塁だけでなく、スキあらば次の塁を狙う姿勢は、野球少年の手本。凡打でも常に一塁までしっかり駆け抜けている。普通のレフト前ヒットでも二塁打にすることもあるし、三塁打8本は今年のMLB最多。三塁打というのは球場で見ているファンにとって、いちばんエキサイティングなプレーやし、ほんまの千両役者。ベンチのゴミを拾ったり、謙虚さを失わないマスコミ対応も含めて、立ち居振る舞いが完璧すぎる。
そして、僕が最も褒めてやりたいのは、1年間ケガなく完走したこと。「違和感」や「張り」で休むプロ野球選手は「打って」「投げて」「走って」の大谷を見習えと言いたい。イチローもそうやったけど、ケガをしないための舞台裏の準備、ケアは人一倍してきたと思う。投手としては9勝で終わったけど、強いチームに在籍していれば、ベーブ・ルース以来の「10勝&10本塁打」も軽く達成していたと思う。ほんまに漫画の世界みたいな選手。来年は外野も守るという話が出ているし、規格外の活躍で楽しませてほしい。
スケールの大きさでいえば、阪神の佐藤輝もとてつもない可能性を秘めている選手。10月5日のDeNA戦で60打席ぶりに安打を放ち、連続打席無安打のNPB野手ワースト記録がついにストップした。変化球を打ってのもので、ストレートにはまだ差し込まれる傾向が強いけど、これで本人も肩の力が抜けると思う。これだけ打てなくても使ってもらえるというのも、首脳陣が能力を認めているからこそ。
評論家ら、周りでいろいろ言う人もいるけど、僕はやっぱり使い続けないとアカン選手やと思う。大谷と一緒で、多くのファンは佐藤輝の打席を楽しみに球場に足を運んでいる。比べるのは申し訳ないけど、「バッター大山」のアナウンスよりも、「バッター佐藤輝」のほうが遥かに球場の盛り上がりが違うのを肌で感じる。フォームについてもコーチがあれこれ言うてくるかもしれんけど、規格外やし、教えられるレベルの選手やない。自分で壁を乗り越えて、プロ野球の歴史を塗り替えるような選手になってほしい。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。