藤井聡太五冠VS全盛期の羽生善治七冠「最強はどっちだ」【3】強さの質は全くの別物

 もちろん、藤井五冠も負けてはいない。羽生九段と藤井五冠はともに「天才」と称されるが、強さの質はまったくの別物だ。

「オールラウンダーの羽生さんに対し、藤井さんはいわばスペシャリスト。その時の将棋界の最新トレンド、今で言うと『角換わり』や『相掛かり』になりますが、その研究がどの棋士よりも進んでいる、というタイプです」(深浦九段)

 トレンドとは、棋士たちが「この戦型で戦えば最も勝率が高くなる」と考える戦法。将棋の研究におけるAIの重要度が増すにつれ、トレンド重視の風潮が強まっている。

「藤井さんは序中盤の手筋がまるでマニュアルがあるかの如く完成されていますし、その局面で『レートの高い手』を選択する能力がすごい。AI時代の申し子と呼んで差し支えないと思います」

 先崎九段がこう語るように、AI全盛の昨今、藤井五冠が勝ち続けるのは至極当然の流れと言えるだろう。

 研究を重ね、最近は課題とされた序中盤も死角がなくなってきたとされる藤井五冠。深浦九段からは、こんな羨望の言葉も漏れ出てきた。

「何より『間違わない』というのがすごい。同じ棋士としてズルいとすら思います(苦笑)。我々の時代は自分が間違わないこともそうですが、相手の間違いを見逃さないことがより大事だと教わってきました。特に混沌とした終盤は、間違えた手を指すのが当たり前だった。それくらい終盤で最善手を選択するのは困難なことなんですよ。あそこまで間違わずに指せるのは、我々には常識の範囲外ですね」

■気合で耳が真っ赤に

 タイトル戦ともなれば、2日間にまたがるスケジュールはザラ。そうでなくても日常生活ではありえないほど長時間の集中を必要とするのが将棋の対局だ。思わぬミスが出るのも当たり前の話で、すべてノーミス、というのはそれこそ人間には不可能なことだろう。

「藤井さんも100%間違わないわけではないですが、終盤にミスをしないイメージが強すぎて、相手が見逃してしまうこともあります。私が立会人を務めた王将戦第3局もそうでした。対戦相手としては終盤力の強さも見越した上で序盤、中盤までにある程度のリードを作るしか勝ち筋は見えづらいでしょう。例えば竜王戦の豊島将之九段、王将戦の渡辺明二冠も、終盤に至るまでになんとか優勢に立とうとしたし、実際それがうまくいっている場面もありました」(深浦九段)

 ただし序盤に大差をつければ攻略できるかとなれば、そう単純な話ではないようで、

「その『藤井さんを相手にリードを稼ぐ』というプレッシャーは並大抵のものではない。先ほど触れた王将戦では、渡辺さんが開局前の朝の段階で、気合いで耳まで真っ赤になっている姿を見ました。屈指のトップ棋士をそこまで追い詰めるわけですから、いざ終盤でミスが出たとしても仕方ないですよ。並の棋士であれば、普通に先行逃げ切りのような形で終盤までに差をつけられて負けてしまうでしょうね」(深浦九段)

 今まさに成長を続ける藤井五冠と、全タイトル同時制覇で将棋界の頂点に立った全盛期の羽生九段。アサ芸は夢のマッチメークを七番勝負と仮定して、手堅く勝利を積み白星を先行させる藤井五冠に対して、彼が不慣れな戦法をいくつも繰り出し、乾坤一擲の「羽生マジック」で羽生九段が星を五分に戻し、第7局に突入すると予想。

 ただその結末は、将棋の神をもってしても読み切れないかもしれない─。

*「週刊アサヒ芸能」3月3日号より

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