藤井聡太竜王「衝撃の宇宙奇手」ベスト7局【3】終盤の指しミスを“信用”でカバー

 藤井竜王を語る上で忘れてならないのが詰将棋だ。前出の詰将棋解答選手権では15年に12歳で最年少優勝を果たして現在5連覇中(※20年、21年は開催中止)とひた走る。

「小学校時代から詰将棋では世界一。王将戦第3局でもその成果が表れていました。残り数分の持ち時間で詰みを読み解くことは、もはや人類では不可能です」(松本氏)

 深浦九段も読みの正確さには驚くばかりで、

「序盤、中盤とリードしていても最後に逆転があるのが将棋です。なので、終盤こそ最も大事なのですが、藤井さんはこの終盤が非常に正確です。羽生善治九段でも終盤で読み違えることはあったのですが、ついに間違えない棋士が登場したことに驚きました。将棋を登山に例えれば、藤井さんは最短のルートを知っている。AIに特化しているとは言われますが、まさかそういう人間が現れるとは‥‥」

 この驚異の終盤力がフルパワーで発揮されたのが昨年の叡王戦最終局だった。

「端に桂馬を跳ねる『9七桂』にもこんな手があるんだとびっくりしました。普通は相手の玉または自玉が危なくないかを見る局面において、自陣の桂馬を活用して、最後は詰みに役立たせるという視野の広い手でした」(屋敷九段)

 異次元の奇手を繰り出す藤井無双、もはや5冠、いや8冠も夢ではない。

「実は王将戦第3局の最終盤、117手『9三歩打』は藤井竜王にしては珍しい指しミスでした。しかし、将棋界では〝信用〟と言って、勝率の高い人は終盤で間違えないという専門用語がある。ここで渡辺王将は藤井竜王のミスを見抜けなかった」(深浦九段)

 棋界の頂上決戦はまさに紙一重だったのである。

「羽生善治九段の『5二銀』といえば、加藤一二三九段とのNHK杯。中原誠十六世名人の『5七銀』といえば、米長邦雄永世棋聖との名人戦をすぐに思い出す。同様に藤井竜王の『7七同飛成』もすでに石田戦の絶妙手として認識されている。確実に名棋士の系列を踏んでいるのです」(屋敷九段)

 今後、藤井竜王はいかなる奇手を指すのか。それを目にする我々は同時代に生まれたからこその、僥倖と思わずにはいられない。

*「週刊アサヒ芸能」2月17日号より

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