藤井聡太竜王「衝撃の宇宙奇手」ベスト7局【1】91分を削った「消える魔球」

 藤井がまた勝った! 勝率8割3分を超す〝常勝棋士〟が勝ち星を重ねるたびに世間が大騒ぎするのは、やたら滅法強いからだけではない。対局ごとに歴戦の棋士らをウヌヌッと唸らせる異次元の奇手を放つからに他ならない。81マスの四角い宇宙で、藤井竜王が繰り出した奇抜な鬼手7指しを全解説する!

 1月29日・30日の王将戦第3局、藤井聡太竜王(19)が3連勝で、ディフェンディングチャンピオン・渡辺明王将(37)を崖っぷちへ追い込んだ。

 この激戦に関し〝ひふみん〟こと加藤一二三九段(82)は翌日のスポーツ紙コラムで、序盤27手目に藤井竜王が指した「7七金」について、

〈金は3段目に上がらないものです。ひと昔前なら、「荷物をまとめて国へ帰れ」と師匠から破門を申し渡されてもおかしくない〉

 と、驚きの声を上げた。

 藤井出現まで最年少タイトル獲得記録を保持した屋敷伸之九段が解説する。

「確かに『7七金』〜『8六歩』は昔ならあまり考えにくい手ですが、最近はAIソフトによる研究で見るようになってきました。とはいえ実際には、その後の構想をきっちり組み立てておかなければ指せない難しい手で、藤井竜王はその後、『2九飛』と飛車を下段に引き、いわゆる『地下鉄飛車』を視野に入れて渡辺王将と戦うという遠大な構想があった」

 むしろ、次の「8六歩」が新機軸だったという。実はこの「8六歩」は王将戦第1局で藤井竜王が放った常識外の一手だ。奇襲を食らった渡辺王将は昼休憩を挟み、91分も長考して持ち時間を削っている。将棋ライターの松本博文氏が説明する。

「藤井竜王の将棋にはプロをも感嘆させる華がある。もちろん演出やサービス精神ではなく、最善を尽くすうちに驚くような手が飛び出すわけです。常識外という意味では、野球で二刀流を成功させた大谷翔平と同格と言っていい。この王将戦第1局は、今季最も優れた対局の『名局賞』候補のひとつです。実は、『8六歩』がいい手だったかどうかは現時点ではわかっていない。ただ、戦略家の渡辺王将が想定外の手に大長考、まるで消える魔球のような効果があったことは確かです」

 160キロの速球をミットに叩き込む大谷でも消える魔球はムリだろう。

 藤井竜王との対戦成績は3勝1敗。棋界で唯一2戦勝ち越す藤井キラー・深浦康市九段もこう感嘆する。

「藤井竜王は将棋の第一人者として自分が得意な戦型にこだわらず、さらに強くなるために新しい手を試したのでしょう。今のところこの『8六歩』は是非がわからない未開拓の将棋ですが、今後、他のプロ棋士も真似し、未来には定跡として残るかもしれない」

 まさに時空を超えた宇宙的奇手と見るべきか。

*藤井聡太竜王「衝撃の宇宙奇手」ベスト7局【2】につづく

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