「今のところデジタル庁新設、携帯電話料金値下げ、地銀再編、不妊治療の助成などの政策として掲げている菅政権ですが、これらは単に現在直面している問題の是正を目指すもので、抜本的な経済政策と呼ぶには程遠いもの。アベノミクスでは大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を促す成長戦略の3本の矢のうち、1と2の矢はもう尽きた状況にありました。その上でアベノミクスの継承を行うということは、3本目の成長戦略をどう打ち出していくかを見ることでスガノミクスの本質も見えてくるはずです」(経済ジャーナリスト)
3本目の矢でどう変化したかと言えば、2012年にアベノミクスがスタートして以降、なかなか具体的な投資先が見当たらないことにテコ入れする目的で16年に創設された「未来投資会議」を廃止して新たに、その名もズバリの「成長戦略会議」が新設された。だからそのメンバーの顔ぶれと発言を見ることで、今後、どういった経済政策が菅政権で打ち出されるかがわかることになる。
そこで誰が入ったかと言えば、おそらく菅首相が経済ブレーンとして迎えるであろうとの周囲の予想通りのメンバーが選ばれた。「官から民へ」の掛け声でアメリカ流の競争主義を日本に導入した小泉政権下にあって非正規雇用拡大の規制緩和をブレーンとして支えつつも、その対象先企業のパソナに天下った竹中平蔵氏や、その著書の考え方に菅首相が興味を持ったという、元ゴールドマン・サックスで現・小西美術工藝社社長のデービット・アトキンソン氏などが入ったからだ。菅氏が以前から経済政策上ではこの2人の意見を参考にしてきたからだ。だからこの2人が何を言うかで本当のスガノミクスも見えてくるはずだ。
そして最初に吼えたのは竹中氏だ。竹中氏は9月23日にTBSの報道番組に出演、「毎月7万円のベーシックインカムを導入すれば生活保護が不要になり、年金もいらなくなる」と発言した。つまり、毎月7万円のベーシックインカムを支給する代わりに、国家財政を大きく圧迫する社会保障費を大胆に削ることが可能だと言ったのだ。これには賛否両論が噴出したのも当然だ。
そして今度はアトキンソン氏だ。
11月15日に民主党時代に行われていた「事業仕分け」を引き継ぐ形で行われている「秋のレビュー(行政事業レビュー)」が4日間の日程を終えたが、最終日にアトキンソン氏があたかもトリを務めるかのように登場、中小企業再編について持論を語ったからだ。
「行政改革を目玉政策として掲げる菅内閣と行革担当の河野太郎大臣にとって秋のレビューは格好のアピールの場でした。その場にアトキンソンさんが登場して、これまでの中小企業政策は、本来は淘汰されて市場からいなくなるはずの中小企業を延命させてきたがために日本は生産性の低い社会になってしまっている。だから、大胆な淘汰を行う必要があるとの持論を展開したんです。対する経産省は事業者の規模の大小だけで捨てる・捨てないとの議論はしたくないと、妙に温情的な意見を述べていましたが、それじゃ却って国民にとってわかりにくく、アトキンソンさんの主張の一貫性の方が目立つように映ったと思います」(全国紙記者)
この考え方はもちろん竹中氏も同感するところ。月刊誌「文藝春秋」11月号では、
「(コロナ禍の中小企業支援策では)もともと経営が危なかった企業は救済しないということ」、「淘汰されるべき企業は残しておくと、将来的に日本経済の弱体化につながります」などと述べているからだ。
「ですがこの考え方については、竹中氏同様、安倍政権を参与として支えた本田悦朗・前駐スイス大使などは、極めて危険な考え方で、失業者がたくさん出て日本経済は破壊される、と批判しています」(前出・全国紙記者)
「自助、共助、公助の国づくり」を目指すという菅首相の方針は、最初に「自助」が置かれているように、経済ブレーンの発言を見ても自助が優先するようだ。中小企業の切り捨てという“危険思想”を容認したまま、共助・公助はいつ打ち出されるだろうか。
(猫間滋)