「ポスト安倍」レースがスタートするや、瞬く間に「菅義偉総裁」の流れを演出。すると雪崩を打ったように各派閥が「菅支援」を表明し、投開票を待たずしてほぼ決着をつけてしまった。総裁選をリードし牛耳る「闇将軍」はなぜ、こんなにも絶大な力を持つようになったのか。
飄々とした表情にトボけた話しぶり。時には恫喝めいた口調で迫力を出す。自民党内の人事を操り、この総裁選の最重要キーマンとなっているのが、二階俊博幹事長(81)である。全国紙政治部デスクが解説する。
「安倍総理が退陣を表明した翌8月29日夜、二階氏は菅氏を赤坂の議員宿舎に呼び出し、極秘会談が始まりました。二階氏はその席上で、菅氏を担ぐことを約束。翌30日にはその方針が二階派(47人)の幹部にも伝えられています」
8月31日には最大派閥細田派(98人)、そして麻生派(54人)が菅氏の支持を表明。派閥に属さない菅氏からすれば、数の力でこの上ない後ろ盾を得る布陣となったのである。
昨年9月の内閣改造人事では、二階氏を幹事長から外し、岸田文雄政調会長を代わりに据える動きもあったが、「俺を野に放つとどうなるか」と公然と言い放ち、安倍総理に脅しをかけることで留任に成功している。
圧倒的な発言力、そして党内人事の掌握。キングメーカーたる二階氏のルーツは「政治は数、数は力だ。そして力は金だ」と言った田中角栄元総理にあった。元二階番記者が振り返る。
「角栄信奉者です。和歌山県議から国政に進出する際に、角栄氏から『キミが二階君か。国会議員になるには、選挙区を何回も回ることだ』と声をかけられた。国会議員はこうあるべし、を徹底的に教えられました」
当時の田中派は、のちに総理大臣となった竹下登氏や、政界のドンと呼ばれた金丸信氏ら、実力者が集う集団。その田中派で過ごした若手時代に二階氏の源流があると、政治評論家の小林吉弥氏も指摘する。
「当選1~2回の若手時代は、多士済々の議員たちに埋もれていました。ですが、先輩の仕事ぶりを見て学んでいったのでしょう。角栄のみならず、竹下氏の党内掌握力や後藤田正晴氏の官僚操縦術など、先輩たちのいいところをしっかり受け継いでいます」
いわば田中派のハイブリッドたる存在。政策においても角栄流を継承し、
「角栄氏の『日本列島改造論』を引き継ぐように『国土強靱化計画』を打ち出して建設業や運輸業を潤わせる典型的な土建政治を実行してきました。観光業者の利権が絡んでくるGoToトラベルの実現にも奔走しています」(政治部デスク)
元二階番記者によれば、
「政治信条は『オレは儲かる勝ち馬に乗る』でした。政局と利権にしか興味がなく、それ以外の話になると、寝ていることもあった。ちなみに二階氏の口から、日米同盟が大事だとか、憲法がどうだとかいう話は聞いたことがありません」
和歌山県議時代から二階氏はすでに、みずから力をつけていかねば、との強い意志を持っていたという。
「中央省庁の官僚は必ず何回か地方へ行くことになり、どこかの県庁の課長補佐クラスとして修業をする。そこで仕事ができるかどうかを見極められ、霞ヶ関に戻って出世するかどうかが決まります。二階氏は和歌山に来た官僚を全員、接待した。全てはパイプ作りのためです。国会議員になってからも、役人の人脈作りをコツコツとやっていました」(元二階番記者)
そうした活動を現在まで続けてきた結果、官僚の人脈が二階氏の強みとなっているのだ。
「官僚を手なずけたことで、自分のスキャンダルを潰せるようにもなりました。なぜなら、大半の政治スキャンダル情報は、役人の裏切りでしゃべることになるからです」(自民党関係者)
みずからが手がけた、あるいは関わった案件は、最後まで面倒を見る。これも実力者への土台となったと、この自民党関係者は続ける。
「何かの事業の協力要請を受け、動いたとします。すると1、2年‥‥いや、5年6年たっても『あれはどうなった? 大丈夫か』といつも気にしてくれる」
さらに官僚やマスコミとの懇談の場には毎回、地元和歌山の紀州梅の詰め合わせをお土産として持たせてくれる周到さ。
16年に自民党幹事長に就任すると、二階氏の権力は一気に強固なものとなっていく。
「前任の谷垣(禎一)さんが自転車事故で大ケガを負い、急遽退任することになった。そこで二階さんに回ってきたわけだ。他に人材が育っていなかったからね。党のカネと人事を握ってしまってからは、やりたい放題にブレーキがかからなくなった」(自民党ベテラン議員)
時には党内のバランスをおもんぱかることなく、自身の派閥拡大のために幹事長の権限をフル活用することも。
「衆院静岡5区では現職の吉川赳氏を差し置いて、無所属でありながら二階派に特別会員として籍を置く細野豪志氏の政治資金パーティーで『我々は細野さんを支援する』とスピーチして物議を醸しました。静岡5区は細野氏が民主党議員時代から強固な地盤を築いており、吉川氏は選挙のたびに煮え湯を飲まされてきた。あまりにも露骨な派閥拡張路線に、吉川氏は静岡県連に抗議の文書を提出したほどです。結局、それぞれを無所属で出馬させて、勝ったほうを公認する流れになるのでしょう」(自民党ベテラン議員)
自民党幹事長といえば、同じく角栄氏の薫陶を受け、47歳でその役に就いた剛腕・小沢一郎氏がいるが、
「小沢氏は幹事長時代、次の総理を決める際に、みずから候補者を呼び入れ面談をやりました。でも二階氏は絶対にそんな対立をあおるようなことはしません。小沢氏は官僚の政策を自分の手柄にすることがありますが、二階氏は官僚に花を持たせる。『これは〇〇省の××××が持ってきた政策だ。どうだ?』と平気で言う人です。カッコつけたりはしない」(元二階番記者)
そんな二階氏も80歳を過ぎて、衰えが見え始めたとの声もチラホラ。
「調子が悪い時はモゴモゴした滑舌で、何を言っているのかわかりません。囲み取材や大事な会談には、側近の林幹雄幹事長代理が『通訳』として同席している。幹事長番は、いつも二階氏が幹事長室で寝ている姿を見ています。耳が遠くて、人の話を聞いているのかどうかわからないこともある。記者の質問に『総理が言ったとおりだ』と答え、質問を変えても『総理が言ったとおりだ』と言う。例えば『好きな女優は誰ですか』と聞いても『総理が言ったとおりだ』と言いかねない(笑)」(政治部デスク)
9月2日、二階氏を挑発する動きがあった。細田派、麻生派、竹下派(54人)のトップが二階派を差し置き、共同記者会見を開いて菅氏支持をアピールしたのだ。
「主要派閥の領袖がそろって総裁選に向けた会見を開くのは、きわめて異例なこと。総裁選後の人事で二階派に主導権を握られないための牽制なのは明らかだ」(自民党ベテラン議員)
すでに触れたように、安倍総理は退任後も院政を敷こうとしている。そこへ幹事長続投と権力維持を狙って「儲かる勝ち馬」と踏んだ菅氏に乗る二階氏。両者の覇権争いに加え、先の3派閥の反発が加わって、党内は混沌としてきた。果たして「闇将軍」はどう立ち回るのか。