前駐豪大使・山上信吾が日本外交の舞台裏を抉る!~この時期に訪中した日中友好議連の醜態~

 またしても見てしまった。日本の政治家の醜態だ。

 北京で中国要人と写真を撮っては悦に入っている二階俊博元自民党幹事長、岡田克也立憲民主党幹事長ら、日中友好議員連盟メンバーの与野党政治家の様子を見て、多くの国民はこう思ったのではないだろうか?

「日本の排他的経済水域にはミサイルが5発も撃ち込まれ、福島原発処理水が『核汚染水』などと科学に基づかない言いがかりをつけられ日本全国の水産物が全面禁輸に遭い、20人近いビジネスマンらがスパイ容疑で拘留され、在留邦人は繰り返しナイフで斬りつけられ、靖国神社は放尿・落書きされ、NHKラジオでは中国籍スタッフによりプロパガンダと罵詈雑言を流され、日本の領空は人民解放軍の偵察機によって初めて侵犯された。なのに、なぜこのひとたちは敢えてこの時期に訪中し、笑みを浮かべていられるのだろうか?」

 現下の厳しい国際環境、日中関係を踏まえれば、「KY」としか形容できまい。私の嘆きのツイートを見た旧知のインド人シンクタンカーは、「政治や政治家はモラルとは無縁なものだ」とのマキャベリの箴言を引用して賛同してきた。

 政界事情通からは、「中国要人に人脈があることを見せつけて次の選挙で自分に有利にPRしたかった輩が背後で蠢き、二階元幹事長らを焚きつけた」と聞かされた。世も末だ。

 実際には、お目当ての習近平様にはお目通りかなわず、中国共産党ナンバー3の趙楽際全国人民代表大会常務委員会委員長に会ってもらったにとどまった。北京くんだりまで自民党幹事長や外務大臣経験者が赴いてこのザマでは、恥の上塗り以外の何物でもない。

 百歩譲って、日中関係の現状が憂うべき状況だからこそ、しっかりと申し入れをしたいとの気持ちから出た訪中なのであれば、なぜ中国側要人と会った際、生徒が教師に接するような卑屈な態度となり、しかも、ヘラヘラ笑うのか?!国益を考えないのか?

 中国側は、領空侵犯しても日本の反発は大したことない、とのメッセージを受け取ったことだろう。まさに、「大馬鹿もの!」との一喝を免れないのだ。

 退官後、色々な機会に講演を頼まれる。ほぼ必ず聞かれるのは「なぜ、日本外交はここまで弱腰なのか?」との憂国の思いだ。

 それに対して、私はこう答えている。

「原因は3つです。目の前の相手と居心地の悪い関係に立ちたくないという日本人の人の良さ、足して二で割ることを習い性とする日本の外交官の姿勢、政治家の胆力の欠如」

 この「胆力の欠如」を如実に物語る格好の事例ではないだろうか。

「政治主導」を唱道する政治家たちがこんな無様な有様では、日本の外交官が中国の戦狼たちとどれだけ激しく言論戦、歴史戦に臨もうとしたところで、政治家の安易で愚劣な迎合と追従に梯子を外されてしまい、国益を著しく損なうことは必至だ。

 心配なのは、中国による領空侵犯に明確に抗議した自民党総裁候補は、高市早苗氏と小林鷹之氏のみと報じられていることだ。なぜ、他の候補は「いい加減にしろ」と言えないのか?

 今や対中姿勢こそが次期自民党総裁、そして次期日本国総理にとっては一丁目一番地の重要な戦略的課題だ。期待値を低くしながらも、各候補による政策論議に期待している。

●プロフィール
やまがみ・しんご 前駐オーストラリア特命全権大使。1961年東京都生まれ。東京大学法学部卒業後、84年外務省入省。コロンビア大学大学院留学を経て、00年ジュネーブ国際機関日本政府代表部参事官、07年茨城県警本部警務部長を経て、09年在英国日本国大使館政務担当公使、日本国際問題研究所所長代行、17年国際情報統括官、経済局長などを歴任。20年オーストラリア日本国特命全権大使に就任。23年末に退官。TMI総合法律事務所特別顧問や笹川平和財団上席フェロー、外交評論活動で活躍中。著書に「南半球便り」「中国『戦狼外交』と闘う」「日本外交の劣化:再生への道」(いずれも文藝春秋社)がある。

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