近年はスポーツ界からも「性の多様性」を発信する動きが加速している。昨年8月に開催されたパリ五輪では、193人の選手がLGBTQを公表。これは東京五輪の185人を上回る過去最多の数だという。
その背景にあるのは、カミングアウトすることへの抵抗感が薄れたこと、さらに、それらを受け止める環境が徐々にスポーツ界にも整いつつあることが大きな要因だと考えられる。なかでも、「性の多様性」についての環境整備を推し進めているのが女性サッカーだ。
女子サッカーでは2023年のFIFA女子ワールドカップ出場選手のうち、97名の選手がLGBTQを公表したことで話題になったが、この数は出場選手全体の13%、単純計算すると約8人に1人ということで、国際規模の大きなスポーツ大会では過去最多として大きな話題を集めたものである。
ところが、そんなLGBTQの選手を幅広く受け入れつつある環境の変化に、水を差すような出来事が起こった。それが、2月9日にスペインで開催された女子サッカーの試合途中、ある選手が相手選手の下腹部を触ったという疑惑騒動だった。スポーツライターが語る。
「この日行われたのは、スペイン最上位女子サッカーリーグのリーガFで、FCバルセロナ対エスパニョール戦。報道によれば前半15分、バルセロナのスペイン代表DFマピ・レオンと、エスパニョールのコロンビア代表DFダニエラ・カラカスが競り合い、もみ合いになった。すると、直後にレオンがカラカスの下半身を手で触るシーンを中継していたカメラが捉えたのですが、レオンは2018年にトランスジェンダーであることをカミングアウトしていたこともあり、その映像がSNS上に拡散して大騒ぎになったというわけなんです」
しかも、その後エスパニョール球団が「(レオンの行為は)私たちが容認できない行動であり、見過ごしてはならないこと」という声明を出したから大変。SNS上には拡散された映像とともに、時代錯誤も甚だしいような誹謗中傷が続出し、上へ下への大騒動に発展することになったのだ。
「レオンは『映像に映っているシーンは、カラカスと接触した後、私の手が、たまたま彼女の足に触れただけのこと。私はカラカスの重要部位に触れたなんてありえないし、まったく意図したものではない』と行為について全面否定しています。レオンはバルセロナを5回優勝させ、欧州サッカー連盟女子チャンピオンズリーグでも3回の優勝に導いた立役者。一方、カラカスもコロンビアの2023オーストラリア・ニュージーランド女子ワールドカップ(W杯)ベスト8入りに貢献した人気実力ともにある選手ですからね。今後の成り行きが気になるばかりです」(同)
国際サッカー連盟(FIFA)は2018年ワールドカップでメキシコのサポーターたちが、同性愛差別的な罵声を浴びせた際、同国のサッカー協会に罰金を科したこともある。
ただ、現在のFIFAの罰則には、人種、肌の色、言語、宗教、出身による差別が、明確な禁止事項として明記されているが、性的指向を差別理由にした問題行動を明示していない。
女子サッカー界がこうした風潮を帰るべく努力している中、今回の騒動が時代を逆行させないことを願うばかりだ。
(灯倫太郎)