【中国】かつての不動産王「万達集団」王健林が習近平の逆鱗に触れた“絶対タブー”

「万達集団」(ワンダ・グループ)と聞いて、すぐにわかる人は少ないかもしれない。しかし、フランスへ6000名あまりの大社員旅行を行った会社、あるいは、2016年のFIFA(サッカー世界大会)の冠スポンサーになった企業と言えば、少しはイメージが湧くだろう。

 中国が「世界の工場」と呼ばれたのは1990~2010年。安価な労働を売りに外資を呼び寄せ、成長に次ぐ成長を続けたが、この時代は中国人が「カネが命」とばかりに冷酷に金儲けに走った時代である。

 そんな新時代の始まりを察知した人民解放軍兵士の王健林氏は1988年に軍に見切りをつけ、不動産開発会社「万達集団」を設立。その成功を土台に、当時、中国で最も効率よく現金収入を稼ぐビジネスとされた映画館運営に力を入れた。さらに映画館運営を海外に広げると同時に、米国の映画会社を買収し、その名を世界に轟かせた。国内にあっては、ホテル事業や「万達広場」の名で知られるショッピングモールなど100を優に超える事業を展開し、「不動産王」として中国経済成長のリーダー的な存在となった。

 王氏の個人収入は世界長者番付で321億㌦と伝えられるなど、資産家だった。海外の政府を始め、事業家からの招待が引きも切らない大実業家となっていたが、中国は習近平主席の独裁政治による共産党国家である。そのトップを貶めたり、誹謗中傷することも絶対にあってはならないが、資本市場経済が回転し経済が発展すれば、習近平体制を有難く思う人民は減り続ける。その状況に共産党は民間の事業者を叩くことで威光を知らしめようとする。

 そんな厳しさが増すなか、2017年に、王氏は、「自分で稼いだ金をどう使おうが俺の勝手だ」と、共産党を真っ向から批判したが、これに習主席は激怒。結果、国内の金融機関が一斉に融資を絞った。この日を境に、万達集団は運転資金を稼ぐために事業の売却に追われ、かつての隆盛の影もない。こうした、経済より共産党を守ることを第一とする中国経済が、蘇える時は来るのだろうか。

(団勇人・ジャーナリスト)

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