シリアで残虐の限りを尽くしてきたアサド前大統領がロシアに亡命後、ロシアの外務次官が初めてシリア暫定政権を主導する実質的指導者、アハマド・シャラア氏と1月28日、シリアの首都ダマスカスで会談したことが明らかになった。アサド氏は昨年12月、家族とともに亡命。その後のロシアでの処遇を巡ってはさまざまな憶測が囁かれていた。
ロシアは2015年からアサド前政権下において、シリア内戦に軍事介入。優勢だった反体制派への空爆を実施し戦局を政権軍側に好転させたことで、その見返りとして旧ソ連時代から租借してきたシリア西部タルトスの軍港、さらに北西部ヘメイミーム空軍基地の使用権を獲得。軍を駐留させることで地中海や中東、アフリカなどに軍事的影響力を行使する戦略拠点として利用してきた。
ところが、アサド政権が壊滅し、アサド氏がロシアに亡命したことで、その後のロシアとシリアとの動向については注目が集まっていた。国際部記者が解説する。
「現在、暫定政府を率いる旧反体制派『シリア解放機構(HTS)』のトップ、アハマド・シャラア(通称ジャウラニ)氏は、前政権の打倒以来、外国政府高官らと会談を重ねるなど、正式な新体制のリーダーとして事実上、指導者とされてきた人物。シリア国営通信によれば、同氏には新憲法施行までの暫定的な立法機関設立の権限も与えられると言われています。ロシア政府としては政権交代後も、なんとしてもシリアにある2カ所のロシア軍基地を維持したいという思いがある。しかし、そのためには当然、アサド氏の処遇も大きく関わってくるはず。それが今回、ロシアの外務次官がシリア入りした最大の目的だとみられています」
ロシアのタス通信は、両氏がシリア国内のロシア軍基地の扱いを巡る協議を継続することで一致したと報じている。だとすれば、水面下でアサド氏の引き渡しが正式に成立したことになるわけだが…。
「ロシアは自国で秘密裏に開発した生物兵器や化学兵器などをシリアに提供し、それをアサド前大統領が反政府組織に使用して数万人もの市民を殺害してきた。むろん、それらの経緯については、アサド氏は全て知っているはずで、つまり、アサド氏がシリアに戻り、それらのいきさつを洗いざらい告白した場合、プーチン氏に対する国際世論の風当たりが強くなるのは必至。これまでにも自分に対し都合が悪くんなれば蜜月だったオリガルヒでさえも、簡単に謎の死を遂げてしまう国ですからね。そう考えた場合、プーチン氏がすべてを知るアサド前大統領をそのまま自国へ返すとは思えない。アサド氏の処遇が気になるばかりです」(同)
ロシアのペスコフ大統領報道官は、アサド氏らの引き渡し要求の有無についてコメントを控えているが、1月30日には、カタールのタミム首長もダマスカスを訪れ、ジャウラニ氏と会談。シリアの包括的復興計画などを協議し、カタール側はシリア支援を強化して支え続ける姿勢を示したと報じられている。
はたして、ロシアに亡命したアサド前大統領が、何事もなくシリアに帰国することはあるのか。注目が集まっている。
(灯倫太郎)