ロシアのプーチン大統領が、対ウクライナ戦での核の使用を再びチラつかせ始めている。アメリカのシンクタンク研究者が言う。
「アメリカでトランプ氏が次の大統領となることが決まった直後、ロシアのリャプコフ外務次官がロシアのインタファクス通信によるインタビューで明かしたもの。ロシアには核の使用条件を決める『核抑止の国家政策の基本』があるが、プーチン氏は9月、この文書の改訂に言及。例えばウクライナによるロシアへの通常兵器攻撃でも、背後にアメリカやフランスなど核保有国が支援を受けている場合はウクライナを核攻撃できるとの見方を示していましたが、リャプコフ氏は今回、『核オプションに訴える可能性を(文書に)反映するときが近づいている』としたんです」
こうした“脅し”を改めて強調した背景には何があるのか。
「トランプ氏はウクライナ戦争についてこう語っている。『もし私が大統領なら、あの戦争を24時間で終わらせる』と。しかし具体案については選挙中も、そして当選後も発信していない。そんな中、当選後の11月6日にトランプ氏とゼレンスキー氏が25分にわたり電話会談。しかも、その場に実業家のイーロン・マスク氏が同席していたことが報じられた。となると、今後のロシア・ウクライナ問題にはマスク氏が大きく関わってくる可能性が高い。リャプコフ外務次官の“核の脅し”には、この電話会談の話を受けたプーチン氏の焦りが反映されているのではいか」(同)
米ニュースサイトでは、その会談でマスク氏が、自身が率いる宇宙探査企業「スペースX」が提供する衛星通信網「スターリンク」を通じてウクライナ支援を続ける考えをゼレンスキー氏に伝えたとしている。
「『スターリンク』は高度約500キロの低い高度を回る衛星を使用した衛生通信サービス。一時ロシアに追い詰められていたウクライナは、この『スターリンク』の使用許可を得たことでドローンの高度な遠隔操作や味方同士の素早い通信手段を手に入れ、ロシアと対等に戦いを進められている。マスク氏はプーチン氏とも親しいと言われ、一時はロシアの侵攻獲得した地域をそのまま凍結した和平案を提示し、ウクライナと険悪になったこともあった。そのマスク氏とトランプ氏がタッグを組んだことで、プーチン氏としてはウクライナとの停戦を有利な形で進められると思っていたようですが、会談の状況からどうも雲行きが怪しくなってきたというわけです」(同)
そのため、核の使用をチラつかせトランプ氏とマスク氏を牽制したのが、リャプコフ外務次官の発言とも受け取られているのだ。
ただし一方で言えることは、アメリカ世論はもちろん、欧州諸国がトランプ氏がウクライナから離反することには厳しい視線を送っていること。トランプ氏が「24時間で戦争を終わらせる」というほど事は簡単ではない。
「トランプ政権下ではマスク氏の側近が国防長官になるのではとの情報まで飛び交っており、いずれにせよウクライナとロシアの戦争が今後どうなるかは、マスク氏の動きが大きなポイントになってくる。ただし、民間企業のトップが国の方針をも左右する動きを、国民や世界は歓迎はしない。かと言って、トランプ氏に無碍な扱いを受ければマスク氏はプーチン氏になびくことになる」(同)
大統領選で莫大な援助を受けたことで、マスク氏という爆弾を抱えたトランプ氏。プーチン氏の脅しの最悪の結末は、双方が裏で手を組むことだろう。
(田村建光)