1月6日、各国駐在大使の前で外交方針演説を行ったフランスのマクロン大統領。その内容がEU圏だけなく世界中に波紋を呼んでいる。
フランスはウクライナへの支援を続けているが、「領土問題の現実を見なければいけない」とロシアが実効支配する地域の領土割譲を前提とした停戦交渉を検討すべきとしたのだ。
しかも、この割譲停戦案を提案するのはマクロン大統領だけではない。4年ぶりに政権の座に返り咲いた米国のトランプ新大統領もその一人だ。むしろ、他国の指導者よりも早い時期から主張しており、この条件でロシアとの停戦交渉のテーブルに着くようにウクライナ側に圧力をかけることが予想される。
「実業家でもあるトランプ氏は現実主義者。分析官などの情報をもとにウクライナがロシア軍を実行支配地域から国外へ追い出すのは困難との予測を立てているはずです。このままいたずらに戦争状態を長引かせるのは、米国にとっても得策ではないと判断したのでしょう」(軍事ジャーナリスト)
さらにEU圏では、ロシア寄りで知られるハンガリーのオルバン首相、スロバキアのフィツォ首相のように、加盟国の複数の首脳が割譲停戦案を支持。また、北大西洋条約機構(NATO)の前事務総長のストルテンベルグ氏も昨年12月、ドイツメディアの取材に対し、「一時的な領土割譲が和平の早期実現の可能性になりうる」と語っている。
「ウクライナへの配慮から“一時的”という表現を使っていますが、割譲すればソ連崩壊のような状況がロシアに起きない限りは難しい。当事国にとっては、いくら『和平のため』と言われようが屈辱でしかありません。素直に国土を差し出すかは疑問です」(同)
実際、ゼレンスキー大統領は一貫して徹底抗戦を主張しており、割譲案への猛反発が予想される。だが、米国やEU諸国の支援がなければ戦争の継続が難しくなるのも事実だ。しかも、トランプ新大統領とロシアのプーチン大統領とは前回任期中(17~21年)からの付き合い。ゼレンスキー大統領よりもはるかに親密な関係を築いている。
ウクライナにとっては、ロシア軍がキエフに肉薄した22年2月の開戦直後とは別の意味で危機的状況が迫っていると言えそうだ。