近年、日本の軍事・安全保障分野において、「ロシア人スパイ」と疑われる人物の活動が注目されている。
彼らは学会やシンポジウムに積極的に参加し、研究者や関係者と接触を図る。具体的には、軍事技術や防衛政策に関する学会で名刺交換を熱心に行うという。名刺を受け取ると、数日以内に丁寧なメールを送り、情報交換や意見交換を提案してくる。文面は友好的で、専門知識を共有したいとする姿勢が強調されるが、その背後には情報収集の意図が疑われる。
こうして知り合った研究者らに対し、彼らは東京の六本木や銀座の高級レストランに食事に誘うなどして親密な関係を築こうとする。食事の際には、日本文化への関心をアピールしつつ、手土産としてロシア産のウォッカやチョコレートを渡すこともあるようだ。実際に、こうした誘いに応じた関係者の証言によれば、彼らは会話の中で軍事技術や政策動向に関する質問を巧みに織り交ぜてくるという。公安関係者が語る。
「スパイ活動は、サイバー攻撃や直接的な盗聴のような行為だけでなく、このような人間関係を通じたものが、地味だが効果的と言われます。日本の安全保障当局は、こうした動きを『ソフト・インテリジェンス収集』と分類し、ロシアの情報機関が関与している可能性を指摘しています。ロシアはウクライナ侵攻以降、国際的孤立を背景に、日本での情報収集を強化していると見られているのです」
加えて、最近ではオンラインでの接触も増加している。SNSや研究者向けプラットフォームを活用し、共同研究の提案やウェビナー等への招待を通じて関係を構築するケースがあるという。これらのプラットフォームでは、プロフィールに偽装された学歴や職歴を記載し、信頼性を高める工夫が見られる。
無意識下の情報提供が国家の安全保障を脅かすリスクは決して小さくない。学会参加者や企業関係者は、過度な接触に警戒し、情報管理を徹底する必要があるだろう。
(北島豊)