来年3月に予定される大統領選に出馬する意向を固め、近く表明する方針だと報じられている、ロシアのプーチン大統領。出馬すれば通算5選が確実視される中、本人としては圧倒的支持を得ての当選という意向が強く、来年3月までになんとしてもウクライナとの戦いに勝利したいという強い思いを募らせていると伝えられる。
そんなプーチン氏の執念を象徴しているのが、昨今のなりふり構わぬ兵士の動員だろう。プーチン政権は昨秋、「部分的動員」の名目で30万人の予備役を召集。しかし、国内の男性が大量に国外脱出を図る事態が勃発。そこでプーチン氏が目をつけたのが、民間軍事会社ワグネルを使った「受刑者」のリクルートだったが、プリゴジン氏亡き後も、国防省及び正規軍がそれを踏襲する形で受刑者らを戦地へ送ってきた。
「しかし国防省の規定では原則、ロシア国内で服役中の受刑者は兵役登録の対象外でした。だからこそ当初はワグネルにそれをやらせてきたわけですが、『プリゴジンの乱』以降、正規軍がその役割を担わなければならなくなった。そこでロシア政府は11月3日、このNG規定を削除。今後、受刑者は入隊事務所を経由したり、健康診断の受診などの手続きを踏まずに『特別軍人』として兵役に登録できるようになったといいます」(国際部記者)
そして今回の規定変更により、プーチン氏の思惑通り、受刑者兵士の最前線への派遣が加速することになるはずだ。
「先月26日付の米紙ワシントン・ポストでは、昨年2月のウクライナ侵攻開始時点で約42万人いたロシア国内の受刑者数が、直近では26万6000人にまで減少していると報じています。これが事実であれば、ロシア国内の刑務所から4割近くの受刑者が消えてしまったことになる。ロシアの独立系メディアでは、ワグネルが動員した受刑者は5万人程度としていますから、国防省が正規軍として動員した数はそれをはるかに上回る計算です。いやはや、国を挙げで受刑者を戦地に送ることなど考えられないこと。驚愕するばかりです」(同)
最前線に動員されている受刑者部隊は非公式に「ストームZ」と呼ばれ、これはロシアのウクライナ侵攻への支持を意味する「Z」や、受刑者や死刑囚を表すロシア語「ZeK」から名付けられたとされる。決死の突撃を命じられ、損耗率は4割から7割にも及ぶとも言われるが、
「同部隊はまともな装備を与えられず、訓練らしい訓練もないまま、いきなり前線に送り込まれ、逃走できないよう正規軍から監視され、逃走した場合は射殺されるという、まさに地獄のような環境に身を置きながら戦っていると言われます。また、ロシア独立系メディアの報道によれば、戦闘拒否で有罪判決を受けるロシア軍兵士は毎週100人ペースで増えており、このままいけば、1年で約5200人が有罪になる計算だといいます。そうなれば、国防相としては今以上に受刑者に頼らざるを得なくなる。受刑者の兵役登録を容易にする今回の法改正により、ロシア国内の刑務所がガラガラになる可能性もありすね」(同)
国内の一部には「重罪を犯した者を養うために税金を使うぐらいなら、国のために死んでもらえ」という過激な声もあるようだが、とはいえ、それが甚だしい人権無視であることは明白だ。選挙のために人命を軽視する独裁者の冷徹な素顔が垣間見られた、そんな法改正だった。
(灯倫太郎)