百歩譲ってロシアならまだしも、大国にコバンザメのように付いているだけのベラルーシで、いったいどんな諜報活動をしていたというのか。
ロシアの同盟国ベラルーシの検察当局が3月17日、昨年夏、軍事施設などの情報を日本の情報機関に送ったとして拘束していた日本人男性に対し、諜報活動の罪で禁錮7年、罰金2万1000ベラルーシ・ルーブル(約95万円)の判決を言い渡したと発表した。
男性は元日本語講師の中西雅敏氏で、ベラルーシの国政放送によれば、裁判所は2018年から2024年にかけ同氏が諜報活動を行っていたと認定したという。
国際ジャーナリストが解説する。
「中西氏が当局によって逮捕拘束されたのは、昨年7月。裁判は今年1月から首都ミンスクにある裁判所で行われてきたものの、非公開なため適切な証拠に基づいた判決だったのか等々、詳細についてはまったく明らかになっていません。中西さんをめぐっては、昨年9月、ベラルーシの国営テレビが、『東京から来た”サムライ”の失敗』と題する15分の特別番組を放送。番組では中西氏が日本の国家公安委員会の指示で、2018年にベラルーシ南東部のホメリに移り住み、諜報活動に従事。ウクライナとの国境付近に頻繁に出かけては、鉄道や橋などの写真を撮影、それら延べにして9000枚に及ぶ写真をSNSで、こつこつと日本の国家公安委員会に送っていたと伝えています。ただ、常識的に考えてもロシアと違い、日本にとってベラルーシがさほど重要な情報収集地点でないことは明らか。そんな場所であえて何を調べ、どんな諜報活動が必要なのか。しかも、特別番組では証拠とする同氏のSNS投稿を翻訳したロシア語の内容も、著しく異なっていて、あまりにもズサンな点が目立つ。つまり、何らかの勘違いか、あるいは、最初からスパイだと決めつけたでっち上げによる逮捕、拘束である可能性も否定できないということです」
そうだとすれば由々しき問題だが、ベラルーシと言えば「欧州最後の独裁者」とも呼ばれるルカシェンコ大統領は、30年以上政権を維持しているというとんでもない独裁国。今年1月に行われた大統領選挙においても、またも現職のルカシェンコ氏が勝利し、7選が決まったばかりだが、
「現地メディアの報道によれば、今回の大統領選にはルカシェンコ氏のほかに4人が出馬したものの全員が政権寄りで対立候補はおらず、ルカシェンコ氏は出口調査で88%近い票を獲得。つまり、毎度おなじみの出来レースでの大統領就任が決まったようです」(同)
前回2020年に行われた選挙では、ルカシェンコ氏に票を盗まれたと非難する抗議者たちも現れたが、同氏はこれらの人々に対し厳しい制裁を与え、残忍な弾圧が行われたことはよく知られる話。今回の選挙結果についても、西側諸国は「とんだでっち上げの茶番劇」と切り捨てている。
「つまり、ルカシェンコ氏が黒と言えば、白が簡単に黒に変わってしまうという国、それがベラルーシだということ。そして、そんなベラルーシを鶴の一声で操っているのが、ロシアのプーチン大統領ですからね。今回の日本人への禁固刑に、どんな背景があるかはわかりませんが、プーチン氏によるなんらかの指示があり、日本政府に揺さぶりをかけるための行動だとしたら問題の根は深い。日本政府としては表だった交渉だけでなく、それこそ諜報活動を駆使ししながら、水面下でも交渉を継続していってほしいですね」(同)
はたして今回の日本人逮捕拘束、そして禁錮刑の背景にあるものとは…。
(灯倫太郎)