永江朗「ベストセラーを読み解く」「労協」の事業内容は多種多様 今後は組合の時代が到来する

 明るい未来像を思い描けない時代になった。今日より明日が、今年より来年が、10年後、20年後が、良くなっているとは思えない。だから、働くことについての意識が変わるのも当然だ。「一所懸命働いて、会社が大きくなれば自分の暮らしも豊かになる」と信じられたのは遠い過去の話。あの頃は「嫌なことや辛いことも、未来のためだ」と思えば我慢できたし、「この社長のために頑張るぞ」という人もいただろう。

 だが、現代は違う。大きな株式会社では、株主の利益が何よりも優先されるようになった。社長は経営を任されているだけで、会社の持ち主は株主。株価を上げて配当を増やすのが株主たちの目的だ。じゃあ、株主は社員になにをしてくれる? 社員が今日も辛いことを我慢して働いているのは、株主たちのためなのか?

 「嫌なら辞めれば?」という声が聞こえてくる。「自分で起業すればいいではないか」という考え方もある。会社を興すハードルは、ひと昔前に比べると下がった。法人ではなく個人事業主として始めることもできる。

 でも「1人ではなく誰かと一緒に働きたい」という人もいるだろう。会社員でもなく、個人事業主でもない、いわば第3の働き方が少しずつ広がっている。これが「労働者協同組合(労協)」だ。労働者自身が出資して設立し、共同で運営する事業組織で、「生協(生活協同組合)」の労働者版のようなものだ。「生協」は消費者が出資して、共同で物やサービスを購入する組織。それと同じように、労働者が共同で仕事を作り、みんなで働く。

「ワーカーズ・コープ」や「ワーカーズ・コレクティブ」などとも呼ばれる働き方で、既存の資本主義とは異なる社会的連帯経済として注目されている。本書は、日本における「労協」等についてのルポルタージュである。

 本書には、さまざまな「労協」が紹介されているが、その事業内容は多種多様だ。例えば「北摂ワーカーズ」という「労協」は、有機食品の配達、剪定などの植木仕事、住宅リフォームなどの大工仕事、空き家の見回りなどさまざまなことをする。組合員が「これならできる」「これをやりたい」を事業にしていくからだ。「仕事のために人を作るのではなく、人に合わせて仕事を作る」と北摂ワーカーズのメンバーが言う。だから、やりたくないことを上司から無理に押しつけられることもない。

 興味深いのは金融の話である。銀行と信用金庫(信金)、信用組合(信組)。同じようなものだと思われがちだが、まったく違う。法律によると、銀行は「国民経済の健全な発展に資すること」が目的とされるが、儲かりそうなところに貸して、そうではないところには貸してくれないのが現実だ。

 一方「信金」や「信組」は営利が目的ではなく、協同組合方式で運営されている。労働者による労働者のための金融機関「労働金庫(労金)」というものもある。これからは組合の時代ではないか?

《「働くことの小さな革命ルポ 日本の『社会的連帯経済』」工藤律子・著/1100円(集英社新書)》

永江朗(ながえ・あきら):書評家・コラムニスト 58年、北海道生まれ。洋書輸入販売会社に勤務したのち、「宝島」などの編集者・ライターを経て93年よりライターに専念。「ダ・ヴィンチ」をはじめ、多くのメディアで連載中。

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