日本では99%の人が義務教育の1つ先の高校まで通う。義務教育ではないので授業料が必要だ。その授業料を巡って、少数与党と日本維新の会が1月から2月にかけて議論を戦わせた。はっきり言うと、政府の予算案に賛成してもらうための駆け引きだ。もちろん、国民のためになる駆け引きなら大いにしてもらって構わない。
日本維新の会は「高校の授業料無償化」を政府に求めた。99%の子供が進学する高校の授業料は「無料になったほうがいい」と多くの人が思うだろう。だいたい日本の教育予算は少なすぎる。OECD(経済協力開発機構)、ひと言で言えば経済的に恵まれた36カ国(1月20日時点では38カ国)のうち、日本の教育予算は下から3番目だそうだ。日本は資源のない国、優秀な人材とチームワークで経済発展をしてきた国だ。教育に予算を振り分けることは日本の未来への投資。私も賛成だ。
ただし、いくら日本の教育予算が少なくても、実は以前から高校の授業料については国から相当のお金が出ている。年収910万円未満世帯では、公立高校の年間授業料11万8800円は全額カバーされている。
高校生の子供がいる家庭の両親の多くは40代だろう。40代世帯の平均年収は696万円(厚労省の23年調査)。910万円を超えるような家庭は全体の2割以下だ。さらに年収が590万円未満で全日制の私立に通う場合は39万6000円まで就学支援金が出る。
今回、与党と維新の間で議論されているのは、まず910万円未満という所得制限を外すこと。今まで対象外だった年収910万円以上の恵まれた世帯にも公立私立問わず11万8800円を支給する。さらに私立に通う子供には45万7000円まで支援金を引き上げようというもので、新たに5000億円くらいの予算が必要になるという。
ということは、これで得をするのは世帯年収910万円以上の恵まれた家庭、そして、私立に子供を通わせる家庭というわけだ。これでは年収910万円未満の公立高校に子供を通わせる世帯には恩恵がない。
私立は最大45万7000円、公立は11万8800円だから、3年間で見ると、私立は最大137万1000円を支援するけど、公立なら35万6400円ほど。
ちょっと待ってくれ! と言いたい。教育費は何も授業料だけではない。公立高校に通う場合も入学金、教材費、交通費、制服代、修学旅行、クラブ活動費や学校納付金など、こうした「学習費総額」は年間約51万円もかかるのだ。
そして、99%の子供が高校に進学するということは、収入の少ない家庭の親も「高校くらいは出してやりたい」と、自分の楽しみどころか、食費まで削って子供を高校に通わせている。そういう苦労をして公立高校に通わせる家庭の親に、ホッと一息つけるような予算の組み方はできなかったのだろうか?
例えば公立・私立で差をつけないで、高校に子供が通う場合は一律30万円を毎年支援してくれれば、どれだけ多くの親が助かっただろう。
はっきり言うと、2割以下の恵まれた家庭の教育費を応援して、苦労して子供を育てている多くの家庭の教育費を後押ししないことに心底、腹を立てている。
さらにもうひと言。高校に進学する99%の子供の中には、夜間高校や通信制などの学生もいる。そういう環境で学ぶ人たちへも同じように拡充がされた予算だろうか?
少数与党の政治状況で野党の主張も受け入れられる環境になった。では、どこかの政党の政治家が、メディアが、そういう学びの人たちのために声を上げただろうか? もっと庶民を、目立たない人も応援しろよ。冷たいよ。そういう薄情な政治家やジャーナリストに言いたい。どうか山田洋次監督の「学校」(93年、松竹)という映画を観てもらいたい。頼むから。
佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。8月5日に新刊「新NISA 次に買うべき12銘柄といつ売るべきかを教えます!」(扶桑社)発売。