政府が検討中「プラチナNISA」の魅力とリスク/佐藤治彦「儲かる“マネー”駆け込み寺」

「NISA」(ニーサ・少額投資非課税制度)では、株式投資などで得られる利益に税金がかからない。わかってくると「こんなに得なのか!」と驚くほどだ。

 NISAでは「投資信託」も人気がある。自分で勉強したり、調べたり、日々判断することが少なくて済む手軽さで人気なのだ。

 ただし、優遇を受けられる投資信託は限定されていて、一部のシニア層に人気の投資信託が除外されてきた。それは「毎月分配型」の投資信託。若い人は投資信託でも株式投資でも、資産運用は将来を見据えて20年、30年先まで考えてのものも多い。しかし、シニア層は別だ。

 特に、すでに年金をもらい始めているシニア層にとっては、20年先に儲かる投資にはあまり興味がない。できれば、今すぐ利益が出るものがいい。利益といっても、べらぼうでなくていい。「毎月少しずつ利益が出るものでいい」と考える人は多い。

 なぜなら、投資の目的が年金だけでは老後の生活が不安なので、毎月分配型の投資信託で3万円、5万円といったお金を得て、年金の足りない分を穴埋めしようと思うからだ。

 政府はこれまでNISAの投資先の対象に含まれていなかった毎月分配型の投資信託を「プラチナNISA」という枠組みを作って高齢者に限って認めようとしている。税の恩恵を受けられるので、その点では得になることは間違いない。

 ただし、毎月分配型の投資信託をきちんと理解しないまま始めてしまうと、気がついてみたら「聞いてねえよ〜」と頭を抱えるシニア層がいることも確かだ。

 それは「分配金」と聞くと、自分が投資したお金でプロが着実に儲けてくれ、その増えたお金が分配金として振り込まれたに違いないと思ってしまうから。

 毎月決まった分配金。この〝決まった金額〟というのがクセ者なのだ。

 例えば、老後の生活のために貯めてきた虎の子の1000万円を、毎月分配型の投資信託に投資をしたとする。投資信託なので、それぞれ決められた範囲内で国内外の株式や債券など、元本保証のない投資先にもお金は振り向けられる。投資はうまくいく時も、いかない時もある。うまくいく時は、預けた1000万円が1100万円、1200万円と、どんどん増えていく。だから分配金を払っても元金は確保されている。

 しかし、時には1000万円が900万円、800万円と減ってしまうこともある。特にトランプ大統領が就任してからの3カ月は、世界の投資環境は激変していて、損をしている投資信託も多い。

 ところが、損をしている時にも、毎月分配型の投資信託は決められたお金が振り込まれる。投資した元本が大きく割れている時でも元金を取り崩して支払われるため、元のお金がどんどん減ってしまう。元金が減ってしまえば、そこから回復して増やしていくのはとても難しい。当たり前だ。

 つまり、毎月5万円の分配金なら、年間で60万円以上の運用成績を上げていないと、いや、上げ続けていかないと預けた元金は減ることになる。

 自分では1000万円投資しているつもりでも、投資の損に加えて分配金で元本がどんどん減り、元金がゼロになってしまうこともある。その時に「今月で分配金は終わりです。返すお金もありません」と知らされて、悲劇に巻き込まれていることを知るわけだ。

 そして、元金を減らすもう一つの厄介者がある。それは、投資信託の毎年数%の「信託報酬」という手数料だ。これも投資資金から差し引かれる。年間の手数料が2%だとしても、20年ともなれば、ざっくり40%にもなる。そういうリスクのある商品であることをわかったうえで、投資すべきかどうか、老後の生活を任せていいものかどうかを考えてもらいたい。

佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。最新刊「新NISA 次に買うべき12銘柄といつ売るべきかを教えます!」(扶桑社)発売。

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