最強のエクササイズ「ラジオ体操」 平均寿命の延びで生じ始めた“落とし穴”

 毎朝6時半過ぎから始まるラジオ体操が作られたのは昭和3年(1928)。以来、「国民の体操」として今年で97年を迎える今もなお、全国の人々に親しまれている。

 ある研究によれば、ラジオ体操を正しいフォームでフルに行うと、短時間で約400もの筋肉を連続で動かすことになるのだとか。つまり、まさに「ラジオ体操」は日本が誇る「最強のエクササイズ」と言っても過言ではないのだ。

 ラジオ体操の効果として挙げられるのは、全身を動かすことによる体力の維持や、血流促進、呼吸機能の向上などなど。さらには、胃腸の働きを改善させたり、肩こりや腰痛の解消、さらに骨粗しょう症の予防と、まさにいい事尽くめだ。ただ、健康への効果が高いぶん、逆にあまり一生懸命やりすぎると、逆に体を痛めてしまう場合もある。

 というのも、ラジオ体操は冒頭で触れたように、基本朝6時半過ぎから放送がスタートする。そのため、リアルタイムで行うためには、少なくともその15~30分前くらいには起きなければならない。しかし、朝は体温が低く睡眠中体を動かしていないため、筋肉や関節が一日のなかでも最も硬い状態になっている。そんな状態で音楽に合わせ、反動をつけてリズミカルに体を動かすことになるので、つい伸ばしすぎたり、曲げすぎたり、ねじりすぎたりすると、たちまち関節や筋肉を痛めてしまいことになる。

 加えて、今の季節、朝は凍える寒さだ。ただでさえ、朝は脳卒中や心筋梗塞発症率が一番高い時間帯。人間は眠っている間に発汗や呼吸を繰り返しながら水分を失っている。寝起きは血中の水分量がコップ1杯ほど失われているため、いわば血液がドロドロの状態。そんな状況で全身を使うラジオ体操を頑張れば、健康を害する恐れがあることは言うまでもないだろう。

 そうならないためには、できればラジオ体操をする1時間くらい前に起床し、30分前には朝食を取っておくことがベスト。無理なら白湯やお茶、ホットミルクなどの暖かい飲み物を口にして、体温を上げておくとをおすすめしたい。そして、体を動かす際は全力で伸ばしたりねじったりせず、7、8割程度の力で余裕をもって行うよう心がけることだ。

 現在の形のラジオ体操の放送が始まったのは1951年だが、当時の平均寿命は男性60.8歳、女性64.9歳。つまり、この体操自体、50代(当時の)までを想定したメニューで構成されていると考えられるため、60歳以上の人が毎日行うメニューとしては、かなりハードな内容になっているのだ。

 なので、YouTubeなどを利用し、朝ではなく夕方にシフトすることもおすすめしたい。加えて、立ってやるのが難しい場合は座ってやること。また、肩や足が上がらなければ痛みが出ないところまでに留め、痛みを感じたら絶対に無理しないこと。自分の限界を知っておくことが、怪我の回避になることを覚えておきたい。

 なんでも、ラジオ体操第一は脈拍が90から100程度まで上がるように作られている有酸素運動であるため、心肺機能を高め寝たきりを防ぐ効果も期待できるという。そのため、高齢者は「ラジオ体操第一」だけで十分。無理してよりきつい「第二」を続けて行わなくても大丈夫。早朝よりも、血圧の落ち着いた朝食後、あるいは夕方に行い、自分の痛みの限界を知ること。シニアにとってそれが正しい「ラジオ体操」のやり方だということを理解してほしい。

(健康ライター・浅野祐一)

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