起床時の口の中は細菌ウヨウヨ!「目覚めのコップ一杯の水」の危険

 健康のために、毎朝目が覚めたらまずはコップ一杯の水を飲む、という人も多いはずだ。乾いた口に潤いを与え、眠っていた胃を動かす…水を飲むことを習慣にしている人たちは、おそらくはそんな理由を口にするはずだ。

 ところが、「口」というは栄養素を取り込む入り口である一方、感染症や病気の入り口でもある。特に起床時の「口」は睡眠中に唾液の分泌が減ることで細菌が増殖しているため、それらが出す毒素が最も多くなる時間。つまり、寝起きのまま朝いちばんに水を飲めば、増殖した大量の細菌も一緒に飲み込んでしまうことになってしまうという。

 ある研究によれば「口」は排水口よりも600倍も菌が多いとも言われ、なかには歯周病菌をはじめ、肺炎球菌や黄色ブドウ球菌、カビの一種のカンジダ等々、人間の身体に悪さをする菌もウヨウヨで、その数は便の中にいる菌以上。消化器系の中では直腸の次に菌が多いとされることから、文字通り菌の温床といっていいだろう。

 とはいえ、「どうせ菌を飲み込んでも胃酸で殺されるので、菌が大腸まで届くことはない」と思い込みがち。しかし近年の研究では、「歯周病菌の親」とも称されるPG菌など、唾液中に存在する口腔内細菌の何種類かには耐酸性があるやっかいな菌も存在し、それらが胃を通ったあとも腸管に定着、腸内フローラの構成細菌となることが明らかになっている。

 腸内フローラとは、腸内の壁に隙間なくびっしりと張り付いた菌種ごとの塊が花畑(flora)にみえることから、そう呼ばれるようになったものだが、正式な名称は腸内細菌叢。そして、この腸内細菌叢に毎日少しずつ、口の細菌叢からPG菌などが侵入し、知らず知らずのうちに蓄積されてしまうことで起こるのが、細菌叢のバランス異常。すると、それが原因となって全身に疾患が現れることが多くの論文で報告されている。

 現在、細菌叢のバランス異常による疾患として報告されているのは、脳卒中や脳梗塞、アルツハイマー型認知症、冠動脈心疾患など。ほかにも、すい臓がんや、結腸直腸がん、Ⅱ型糖尿病などの原因となっていることも明らかになっている。

 では、細菌叢のバランス異常を食い止めるためにはどうしたらいいのか。答えは簡単、まずは病気リスクの温床になる口の中から細菌を可能な限り少なくしてやることだ。そのためには、毎朝目が覚めたらコップ一杯の水を飲む、という習慣はやめること。もし水を飲むのであれば、その前に歯を磨き一緒に舌も磨いてしまう。歯周病細菌の数を減らすことで、それらの菌が腸に届くリスクを減らしてやることが重要になる。

 当然のことだが、口腔ケアが上手くできていない人の口の中には、プラーク(歯垢)の量も多く、間違いなく歯周病菌の量も多いはず。就寝前にしっかりと歯磨きをしてプラークを落とすことは無論のこと、朝起きたらまず歯磨きと舌磨きを一番にする習慣を身につけることだ。

 腸環境を整えることが、健康維持のカギを握っていることはよく知られる話。そのためにはまず、入口でリスクを軽減することが重要なのである。

(健康ライター・浅野祐一)

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