報道されているように、おそらく本人には政治的意図はなかったのだろう。しかし、今回の訪問がトランプ氏本人、あるいは周辺とコンタクトを取りたがっている人たちに対し、その存在感を突きつけたことも明らか。それが、安倍元首相の妻・昭恵夫人の渡米だったことは間違いない。
昭恵夫人がトランプ次期米大統領の私邸マール・ア・ラーゴで、同氏とメラニア夫人が主催した夕食会に出席したのは日本時間で12月16日のこと。報道によれば、今回の昭恵夫人渡米は、安倍元首相が亡くなったあとも親交が深かったとされるトランプ夫妻からの直接的な誘いによるものだとされるが、夕食後、メラニア氏は《再びマールアラーゴでお迎えできたことを光栄に思います。私たちは彼女の亡き夫安倍元首相をしのび、その素晴らしい功績をたたえました》と3ショット写真を添え自身のXにポスト。親密な関係を改めて内外にアピールすることとなった。政治部記者が語る。
「官邸ではなく居住スペースに招待されるということは当然、とても大切なお客様という意味がある。2022年に安倍氏が凶弾に倒れた時、トランプ氏は『自分の真の友人であり、それよりはるかに重要な意味でアメリカにとっての友人でもある』とその死を悼んでおり、亡くなってからもよく『晋三に会いたい』という言葉を口にしていたのだとか。そんなこともあり、トランプ夫妻は昭恵さんを心配されていたらしく、手紙などのやりなどもかかせなかったと聞いています。おそらく来年1月20日以降は公務で自由な時間をとることが難しくなるため、この時期に一度、(安倍元首相への)思いを一度伝えておきたいという思いがあったのか…。ただ、電話で5分しか話せなかった石破首相としては忸怩たる思いがあるでしょうね」
というのも、首相時代、トランプ氏とゴルフ外交を重ねる安部氏に対し石破氏は、「国益とはなんだということ。お世辞やおべんちゃらを言うのではない。友情は大切です。しかしそれと外交は別だ」と苦言とも、けん制ともとれるコメントをしたこともあった。
しかし結果、そのゴルフ外交を含めた“腹を割った”話し合いの成果がプライベートでの交流につながり、日米関係をスムーズにしてきたことは紛れもない事実だ。
「いかにプライベートで親密な関係にあっても、互いに国を背負っているからには主張すべきことは主張する、2人はそんな関係を構築していたようです。例えば18年のトランプ氏によるパリ協定からの離脱宣言の際には、主要7カ国(G7)の結束を乱すトランプ氏に対し安倍氏は猛反発。ほかにも正面切ってNOを突きつけたことがたびたびあった。小細工せず正面から向かっていく真摯な態度にトランプ氏が感銘を受け、サミット以降も2人の関係性に距離ができることはなく、それが日米関係の安定化につながっていた。また、トランプ氏は酒がめっぽう強く、陽気で話題が豊富な昭恵夫人を気に入っていたと言われますからね。だからこそ、安部氏亡き後も何かにつけ、夫人のことは気にかけていたのでしょう」(同)
安部氏が存命中、石破氏についてトランプ氏にどう説明していたのか、今となっては知るすべもないが、昭恵夫人との面会後、記者会見を開いたトランプ氏は、来年1月20日の大統領就任前に石破氏と会談することに前向きな姿勢を示した。こうした手のひら返しのような“変化”がまた、安部元首相が残した「昭恵夫人」という遺産の存在を改めて世界に知らしめることとなった。
(灯倫太郎)