輸出国の国内価格よりも低い価格による輸出(ダンピング輸出)が、輸入国の国内産業に被害を与えていると判断された場合、その価格差を相殺するために課される関税を「反ダンピング関税」と呼ぶ。
中国商務省が突如、日米などから輸入の一部化学製品に、この反ダンピング関税を課すことを表明したのは5月18日のこと。周知のように中国とアメリカは、14日にエスカレートしていた相互による報復追加関税合戦を終結すべく、関税を115%引き下げるとともに、引き下げた関税の一部の90日間停止を発表していた。それだけに、このニュースが各国に衝撃を与えたことは言うまでもない。
「中国商務省によれば、中国政府は去年5月から今回の反ダンピング関税をめぐる調査を開始していたという。ただ、今年1月には暫定措置として、保証金の上乗せで価格差を埋める協議に入るとの情報もあった。そんな矢先の中国側による一方的な発表ですからね。各国首脳人も唖然としたでしょう」(国際部記者)
今回、中国が不当なダンピングにより国内の業界に損害が出ていると認定したのは、日米や台湾、そしてEUから輸入している「ポリアセタール樹脂」などの一部の化学製品。同化学製品は、自動車部品から電子機器まで幅広く使用されているが、中国商務省は、19日から5年間にわたり最大で74.9%の反ダンピング関税を課すとしている。
「18日の発表によると、日本に対する税率は35.5%(旭化成については企業別の税率24.5%を適用)で、これは台湾の32.6%、欧州の34.5%より高い数字ではあるものの、米国から輸入する同製品には最大74.9%を課税するとしている。トランプ米大統領が納得するはずはないでしょうから、再び報復合戦がエスカレートする可能性も否定できません」(同)
今回の発表を受け、林芳正官房長官は記者会見で「中国政府に対しては、これまで累次にわたり日本企業の対象製品は中国の国内産業に損害を与えていないため、反ダンピング関税措置を賦課課税すべきでないと申し入れてきた。措置による国内外での影響を精査しながら適切に対応していく」とコメントしているが、中国政府はなぜこのタイミングで、反ダンピング関税措置という手段に出たのだろうか。
「もちろん、できるだけ多くの工業製品分野で自国の市場占有率を高めるためなのは間違いない。また、反ダンピング関税期間の5年の間に国内企業が成長し、国内需要を満たせると判断したのかもしれません。ただ、スパイ法や治安の悪化により、日本を含め欧米の企業が続々撤退している今、“脱中国”がさらに加速することは必至。振り向けば仲間はロシアと北朝鮮だけ、といった事態が現実になる可能性もあるということです」(同)
トランプ大統領がどう出るかも、見ものである。
(灯倫太郎)