山中伊知郎「あなたの知らない“原価”の世界」「クワガタバブル」で主流は「野外採集」から「養殖ブリーダー」方式へ

【今回のお値段「クワガタ」:一匹5000円~数万円以上(クワガタ飼育料 30~40匹分 10万円以上)】

 昆虫で、「商品価値」が高いものといえば、すぐ浮かぶのがクワガタだ。1990年代には「クワガタバブル」とも呼ばれるブームが起き、雄雌のペアで超大型なら数百万から1000万の値段がついたとか。業界関係者によれば、

「今は沈静化してます。飼育技術が発達して、ブリーディングで大型のものが生まれやすくなっているし、体長70ミリを超えるくらいでも、1万円以内で手に入ります。ただし、野外で採集されたワイルド個体は数も減ってるし、大型も珍しいので、オスが60ミリ以上、メスが40ミリ以上のペアなら5万~10万円くらいするかな」

 高値が付くのは、「黒いダイヤ」とも呼ばれるオオクワガタ。小ぶりなコクワガタなら高値はほとんどつかない。日本に数多く分布するノコギリクワガタ、ミヤマクワガタなら小売価格5000円以上のものも。

 かつては野外採集が当たり前で、例えば夏休み、子供たちが近くの山に入って木を蹴り飛ばし、落ちて来たクワガタを捕まえて昆虫を商う仲介業者に売って小遣いを稼ぎ、業者がそれをデパートやペットショップなどに卸す、なんてこともあった。大人でも採集のプロは少なく、だいたいはシロートの小遣い稼ぎであったようだ。例えば採集者が一匹1000円前後で業者に売ったクワガタが仲介業者は2000~3000円の値を付けて小売りに卸し、小売値は5000~6000円、といった形で流通したり。

 だが、「クワガタバブル」以降は、大幅にその流れが変わる。何より、人工的な養殖を試みる「クワガタブリーダー」が急増したのだ。同時にクワガタの飼育用に使うエサやマットなどを製造販売する業者も次々と誕生。ブリーダーは、まず成虫のペアを買って産卵させ、幼虫から成虫までを菌糸瓶と呼ばれる瓶で育てて、羽化して成虫となった後はマットで、エサの昆虫ゼリーを与えて飼育する。オオクワガタなら、10万円以上の経費をかけても、30~40匹以上が成虫になれば、十分に利益が出るといわれる。

 そのブリーダーたちは、ネットオークションなどを通して買い手と直接取引をしたり、製造販売業者を通して小売りに卸したりするようになる。また前出・業界関係者によれば、

「禁止されていた海外産クワガタの輸入が、99年に、一部解禁になったのもその後に大きな影響を与えてますね。一部マニアのものだったクワガタ市場が一気に拡大しました。東南アジアあたりでは、村をあげてクワガタ採りを主産業にするところも出てきて、それを転売する日本の輸入業者も進出しています」

 その裏で、飼い主が飼いきれなくなった外国産クワガタを野に放ち、その結果、生態系を壊したり、国産クワガタのエサが奪われる「放虫」問題も深刻化している。「クワガタ大好き日本人」のモラルが問われるところだ。

山中伊知郎(やまなか・いちろう)子供の頃から、山に入ってのクワガタ採りなどはしたことがない。やはり東京生まれの都会っ子、虫が苦手というより、くさむらからニョロニョロ出てくるヘビが怖かったのだ。

マネー