山中伊知郎「あなたの知らない“原価”の世界」おじさんがバンド活動を始めるとコレだけかかる

【今回のお値段「おやじバンド」:必要経費 初心者バンド総額60万~70万円前後(ギャラゼロ 多くは持ち出し)】

 コロナでライブを控えていた人たちが活動を再開、さらに家に籠もっていた時期に楽器演奏の楽しさに目覚めた人が加わり、「おやじバンド」は今また増加中だ。みずからもバンドに所属する関係者によれば、

「やはり中心は50代から60代の会社も退職手前かリタイア組の中高年層ですね。楽器を買う余裕があるし、仕事も一番忙しい第一線からは離れつつある。ボケ防止にもなるし、キャリアも、会社での地位も関係なく盛り上がれる空間は、おじさんには魅力的なんですよ」

 では、おやじバンドを始めるとしたら、必要経費、つまり「おやじバンドの原価」はどのくらいかかるのか。一応、メンバーは、さほど演奏経験のない初心者がメインと仮定しておく。

 まずはギターで、これは大きく分けてエレキとアコースティックがあるが、初心者レベルなら中古でせいぜい10万~15万円くらい。ベースも同じくらいの価格だ。バンドだと、大体リードギターにサイドギター、ベースとつくのでこれで合計30万~40万円くらいか。もちろんテクニックが上昇していけば、エフェクターと呼ばれる、音に変化を与える機器を次々と買い足したり、「ベンチャーズの曲ならモズライトじゃなきゃ」とブランドにこだわりだしたり、正直、かかるお金もキリがなくなったりはする。

 キーボードも中古なら10万~15万円で買えるし、ドラムはスタジオやライブハウスの備え付けを借りるのが主。楽器だけなら最初は50万~60万円でそろう。

 バンドを組んだからにはライブをやりたいのは当然。となれば、せめて3カ月くらいで、月2~3回、1回2時間程度の練習は必要だ。スタジオ代も場所、設備などによって変わるものの、大体相場は1時間で1人1000円前後。つまり5人のバンドが2時間練習したら1万円くらいか。合わせて10万円もあれば7~8回以上練習できる。

 最後は会場となるライブハウスの費用。仮に15万円の場所を借りて入場料を5000円と設定するとお客を30人集めればトントンとなる。だが多くはそれだけ集められずメンバーが1人5000~1万円くらいを追加補填するのも珍しくない。ギャラが出るライブはほとんどない。それでもおじさんたちは、やる。

「ただ、同じおやじバンドといっても、一時代前の団塊の世代あたりとは傾向が変わっていますね。前の世代はビートルズでもベンチャーズでも、どれだけ本物に近いか、つまり『完全コピー度』を競っていたところがあったんです。今は、原曲にはこだわらず、自分たちでアレンジもする。それにあいみょんの曲を入れたり、相当、柔軟になってますね」(前出・関係者)

「おやじバンド」も、それなりに進化しているのだ。

山中伊知郎(やまなか・いちろう)先日も、ある「おやじバンド」のライブに行ったが、ボーカルが途中で完全に歌詞を忘れてしまったにもかかわらず、平気で演奏は続いた。エレキは音がでかいので、歌詞が飛んでも案外、気にならなかった。

マネー