プーチンはガマンしたのに…五輪開催中にゼレンスキーが禁断の越境攻撃を仕掛けた2つの理由

 8月11日(日本時間12日)、17日間に渡り熱戦を繰り広げたパリ夏季オリンピックが幕を閉じた。周知にようにオリンピックは「平和の祭典」。その証拠に憲章の前文「オリンピズムの根本原則」には、「スポーツを人類に役立てる努力において、権限を有する公的または私的な組織および行政機関と協力し、その努力により平和を推進する」との文言が記されている。ところが、そんな「平和推進」など完全に無視するかのように、ロシアとウクライナによる戦闘が激化している。

 ウクライナがロシア西部クルスク州に対する本格的な地上越境攻撃を開始したのは8月6日のこと。

「ウクライナ軍のシルスキー総司令官は12日、クルスク州で約1000平方キロメートルの領土を制圧し、その地域は74集落に上ったと発表しています。ただ、翌13日に会見したウクライナ外務省報道官はこの越境攻撃について『ロシアとは異なり他の人々の財産を必要としない。ウクライナにはクルスク州の領土を占領する意図はない。国民の命を守りたいだけだ』とコメントしている。とはいえ、この大規模攻撃でまた多くの血が流れたことも事実。しかも五輪開催中の総攻撃とあって、欧米諸国の反応も様々なようです」(通信社記者)

 ゼレンスキー大統領によれば、ロシアは6月以降、クルスク州からウクライナに対し2000回超の攻撃を実施しており、越境攻撃はこれに対抗するためだったと強調しているのだが…。

「国連ではオリンピックが開催されるたびに休戦決議を採択しており、今回も加盟国はオリンピック開幕7日前からパラリンピック閉幕の7日後まで休戦を遵守するとしている。またプーチン大統領でさえ、2022年2月の北京冬季オリンピック期間中にはウクライナ侵攻を中止。戦闘を再開させたのは閉幕式から3日後で、習近平主席に気を使ったとされる。そう考えると今回の越境攻撃の裏にはゼレンスキー氏の焦りが見え隠れします。というのも、ゼレンスキー氏は4日、待ちに待った米国製F16戦闘機がウクライナに到着したとして、テレビ演説で『これで戦況を好転させていく』と自信満々に語っています。しかし米国は、F16や短距離ミサイルは提供しているものの、現段階でロシア本土を攻撃できる長距離ミサイルの提供には二の足を踏んでいる。つまりウクライナ側としては、今回の越境攻撃での勝利を米国に見せつけることで、長距離ミサイルをはじめ、さらなる武器支援に結び付けたい。それが、五倫開催中での大規模攻撃に繋がったとみられています」(同)

 そしてもう一つ、大きな理由とされるのが、今年11月に行われる米大統領選を前に、何としても結果を残したいというゼレンスキー氏の思惑だという専門家も少なくない。

「周知にようにトランプ氏は『自分が大統領になったら24時間で戦争を終結させる』と語っています。そうなれば、ウクライナに対する支援がどうなるかわからない。ハリス氏が勝てば、バイデン政権を継承しウクライナ支援は継続するでしょうが、それも『もしハリ』であれば。イスラエルとハマスなど中東での紛争しかり、ロシア・ウクライナ戦争も、結局は全てそこに繋がっている。現状、各首脳らは米大統領選がどう転んでもいい前提で動かざるを得ないんです」(同)

 パリオリンピックでは「金」3個を含め12のメダルを獲得したウクライナ。一方、中立選手(AIN)の資格で個人競技に参加したロシアは銀メダル1個にとどまったが、その「平和の祭典」の裏でまたもや多くの血が流されることになってしまったのである。

(灯倫太郎)

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