──このアメリカ大統領選の結果次第では世界に大きな影響が出そうです。
池上 その通り。ウクライナ戦争にしてもトランプになればすぐ終わります。ウクライナの支援を全部やめて、ロシアに降伏しろって圧力をかけるわけですからね。ウクライナはアメリカからの支援が来なくなったら、弾薬不足で戦争が続けられなくなる。それを避けるために、バイデンは、ウクライナとの2国間協議で、今後ずっと支援をすると約束したわけです。でも、大統領が代わり「あの約束はチャラだ」と言えばおしまいです。
──一方、ゼレンスキー大統領は年内に停戦の条件を作ると言っていますが?
池上 ウクライナは東部4州のかなりの部分をロシアに占領されたまんまです。一方ロシアも、東部4州はすべてロシアの領土だと宣言しましたが、実際には全部制圧できているわけでもない。つまり、今戦争をやめるとどちらも敗戦なんですよ。だからどちらも引くに引けないわけです。ただし、プーチンはこの停戦の交渉に乗る必要はありません。アメリカの大統領選の結果を待っていればいいわけですから。
──なるほど。そのプーチン大統領は、北朝鮮に入り金正恩と軍事同盟を結びました。
池上 実はあれがすごい微妙で、北朝鮮は軍事同盟だと言っています。もし北朝鮮がどこかの国から攻撃を受けたら、ロシアが必ず軍を送って守ってくれるものという受け止め方をしている。でもロシアはあくまで協力をするという言い方で、協定をよく読むと「できる限りの援助をする」としか書いてないわけです。つまりロシアは朝鮮半島の戦乱になど巻き込まれたくないわけですよ。ウクライナの問題で手一杯なわけですから。
──日本を含め欧米がロシアに経済制裁をしていますが今のロシア国内はどうなっているのでしょうか?
池上 外国の企業が撤退しましたが、全部内需でこれをカバーしている。スタバやマクドナルドがなくたって、そっくりなものがあるわけです。ちゃんと産業として成り立ってるわけですよ。そもそもウクライナは戦争が始まる前から世界最貧国でしたが、ロシアは内需拡大している。やはり、資源があり、それなりの工業力がある国はもつんですね。ロシアが、戦い続ける力はまだまだあります。
──五輪期間中ですが、もう1つの戦争も進行中です。エスカレートして第5次中東戦争に拡大しないか心配ですが。
池上 イスラエルに対し、イランもたびたび反撃をしていますが、本当に全面的にイスラエルと戦争になれば核戦争になりかねません。イランとしてもそれは避けたいのでかなり自制をしている状況です。一方、イスラエルのネタニヤフ首相は、収賄による裁判で刑事被告人になっています。ところが戦争という非常事態宣言により裁判は止まっている。つまり、戦争が終わればネタニヤフは首相の座を降りるだけではなく、刑務所に入れられるリスクが極めて高い。だから、今はガザではなく、多くの部隊をイスラエル北部に送っています。反対に北部の国民10万人は南部に避難しているんです。これは、ヒズボラとの全面戦争になってもいいということです。なぜなら、ヒズボラとの全面戦争になれば、ネタニヤフ政権はますます安泰になるわけですからね。
──トランプとの関係はどうでしょう?
池上 トランプはもちろんバイデンと同じイスラエル支持です。それでもバイデンは、若者たちがパレスチナの人たちがかわいそうと反対デモを行っているため、 例えば大きな爆弾は送らないとか控えめです。でも、トランプになれば全面的にイスラエル支援になります。もっとやれ、もっとやれで激化するかもしれない。実は、トランプ家の孫たちは全員ユダヤ人なんですよ。
──そこまでイスラエルとズブズブの関係とは。中東でも戦争はまだ長引きそうですね。
池上彰(いけがみ・あきら)1950年、長野生まれ。73年NHK入局。94年より「週刊こどもニュース」を担当。05年に退局後は、フリージャーナリストとしてテレビ出演・執筆活動を続けるほか、名城大教授など複数大学で学生を指導。
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