─それでも、ロシアのウクライナ侵攻を見ていると、次は「台湾有事」になるのでは、と不安になります。
池上 おっと、その根拠はなんでしょう。ロシアがウクライナに侵攻した。だから、次は中国が台湾に侵攻する、というのは、なんの裏付けもない話です。仮に、もしも中国が台湾を攻撃したら、台湾の人を大量に殺すことになります。中国は台湾を「1つの中国」、あくまで自分の国だと主張しているわけですよね。自国民を大量に殺し、その後に台湾を占領するとなれば、台湾の人たちが中国政府の言うことに従うと思いますか?
─確かに、国民感情は逆効果になりそうです。
池上 ここは冷静に考えなければいけません。中国は、台湾を獲得するためにそんなに多くの犠牲を払うことはできないんですよ。
今、中国は台湾に対し、軍事演習をしたり、領海・領空を侵犯したりして、台湾の人たちをおびえさせています。そうして、台湾の人たちに「蔡総統は民進党政権だからこんなひどい目にあう。次の総統選で親中国の国民党に政権を渡せば中国との関係が改善されて、平和がもたらされる」、と思うように仕向けている。そのため来年の総統選で国民党が勝ち、将来的に台湾を平和裏に中国のものにするために様々な工作を行っているわけです。
─兵器など使わずして、合法的に台湾を乗っ取れるわけですね。
池上 中国の取る戦術は「孫子の兵法」、戦わずして勝つです。だから、軍事侵攻するなんてことは考えにくいのです。
今、台湾の中で「民進党だからダメだよね。やっぱり国民党がいいよね」という情報が、ネットに大量に流れています。これはすべて中国が偽のアカウントを使って、世論操作を行っているわけです。しかし、台湾で使われる繁体字ではなく中国で使われる簡体字が使われるのですぐにバレてしまうのですが‥‥。
─先月、宮古島で自衛隊機が墜落する事故がありましたが、ネット上では中国の関与を疑う説が飛び交っていました。
池上 おやおや、どうやったらできるというのでしょう。陰謀論に染まってはいけませんよ。台湾有事がすぐに起きることはあり得ません。少なくとも来年1月の台湾総統選までは何も起きませんから安心してください。
(つづく)
池上彰(いけがみ・あきら)1950年長野県生まれ。1973年にNHK入局。現在はフリーランスのジャーナリストとして活躍するほか、名城大学教授、東京工業大学特命教授、東京大学客員教授として教鞭をとる。近著に「そこが知りたい!ロシア・ウクライナ危機 プーチンは世界と日露関係をどう変えたのか」(徳間書店)がある。