イヤーオブドラゴンとなる24年は、台湾総統選をはじめ、アジア情勢が急変する可能性をはらんでいる。激動の時代のナビゲーターに池上彰氏を迎えてのスペシャル講義の後編は、台湾、中国、そして日本はどうなるのか? 緊迫のアジア情勢を熱血ストレート解説する!
ーー前編では中東、ウクライナ、そして米国について伺いました。後編は東アジア情勢をお願いします。
池上 はい、まず何より1月13日は、台湾総統選挙が控えています。民進党、国民党と、民衆党の三つ巴の戦いになっていますが、台湾の世論も割れているんですよ。今の民進党政権によって、例えば熊本県に工場ができた半導体のTSMCのようなIT部門で働いている人は、高給取りになったわけですが、それとは無縁の人たちは、非常に生活が苦しく、格差が広がっているんです。つまり、民進党のおかげで豊かになった人たちは、中国に飲み込まれるのは嫌だ。反対に民進党の政権の下で、生活が苦しくなってしまった人たちは、中国でもどこでも、自分たちの暮らしがよくなることを望んでいるわけです。
ーーここに中国が影を落としているわけですね。
池上 そうなんです。今、中国は民進党に対し様々な嫌がらせをしています。中国大陸から民進党がいかにひどいかという、フェイクニュースが大量に出てきています。あるいは、中国軍によって、戦闘機や爆撃機が台湾ギリギリまで飛んできている。台湾の軍隊は毎日のようにスクランブル発進しなければならず、すっかり疲弊しています。そうすると台湾の国民も、民進党だからこんなに怖い思いをするんだと脅威に感じるわけです。
ーーひたすら恐怖心を煽るわけですね。
池上 反対に国民党は、中国と仲よくやりましょうという政策ですので、中国は「国民党だったらこんなに怖い思いをしなくてもいいよね」と台湾の世論を動かして国民党を勝たせようとしている。国民党に勝たせることができれば、台湾をまるごと中国寄りにしてしまえるという戦略なわけです。これぞ、戦わずして勝つ、「孫子の兵法」なんですね。
ーー台湾有事が心配です。
池上 中国は2027年までに、台湾を軍事的に占領できるだけの力をつけろと習近平は言ってますから。だから、ここ1~2年で戦争することはないでしょう。アメリカは台湾関係法で台湾を守ると言っているので、もし中国が台湾を攻撃した時には、アメリカ軍が台湾に救援に来ます。今の中国軍では、アメリカ軍が台湾を助けに来る際、アメリカ軍を途中で止めることはできません。だけど、2027年までにはもっと空母を造るなどして、中国はアメリカが東シナ海や南シナ海に入れないような力をつける。こうすれば悠々と台湾を占領できるわけです。2027年といえば、習近平の3期目の終わり。つまり、これがうまくいけば4期目が見えてくるわけですね。
ーーそして、習一強の独裁政治が続くことに‥‥。
池上 その一方で、中国は住宅バブルが弾けてしまったので30年前の日本のような状態になっていますね。これを「中国のジャパナイゼーション」、日本化と言います。
ーー日本人としては複雑な気持ちです。
池上 ハハハ。でも、思い出してください。日本のバブルがなぜ弾けたかと言えば、バブルの時に土地の値段がどんどん上がったでしょ。その結果、普通のサラリーマンがマイホームを持てないと悲鳴を上げたわけです。そこで、当時の大蔵省は、金融機関に対し、不動産購入にお金をあまり貸さないよう指導したわけです。これが「不動産融資総量規制」です。これにより、金融機関は不動産売買にお金を貸してはいけないという意味だと忖度し、その結果、住宅が暴落し、バブルが弾けたわけです。中国も住宅バブルでどんどん金持ちとそうでない人の格差が大きく広がってきた。そこで、習近平は「共同富裕」、みんなで豊かになりましょうという方針を掲げ、マンションバブルに乗じている人だけが金持ちになるのはダメだよという方針を打ち出し「金融機関に不動産を買う時にそんなに金貸すな」と指導したわけなんですね。
ーー確かに日本と同じ構造ですね。
(つづく)
池上彰:1950年、長野生まれ。73年NHK入局。94年より「週刊こどもニュース」を担当。05年に退局後は、フリージャーナリストとしてテレビ出演・執筆活動を続けるほか、名城大教授など複数大学で学生を指導。