池上彰が「世界の危機」をズバリ解説!(1)「ハマス1人殺すのに民間人は2人しか死んでない」イスラエルの言い分

 22年のロシアによるウクライナ侵攻に続き、23年は中東でもイスラエルとハマスの戦闘が勃発、現在も続いている。混迷する世界情勢、果たしてニッポンはどこへ? その水先案内人としてジャーナリストの池上彰氏がスペシャル講座を開講。前編は長引く2つの戦争の行く末を徹底解説!

ーー10月7日のハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃は衝撃的でした。イスラエルは「ハマスを皆殺しにする」と反撃に出ていますが、まだまだ長引くのでしょうか?

池上 ハマスの戦闘員は2万5000人いると言われていますが、イスラエルはこれまでに7000人を殺害したと発表しています。なので、もう少し続くでしょうね。

ーーでも、本当に殲滅などできるのでしょうか?

池上 そこなんですが、イスラエルはハマスの攻撃を受けてから、17万人の軍隊以外に、18歳から2年間軍事訓練を受けその後除隊した30万人の予備役を派兵しているのです。そもそもイスラエルは人口が少ない上に30〜40代の働き盛りの30万人が経済界から姿を消しているわけですよ。つまり、イスラエル経済はこのままじゃもたない。せいぜい3カ月ぐらいが限度で、なんとしても2月までにはハマスを全滅させたいと考えているんです。

ーーそれにしても、イスラエルはガザの病院を攻撃したり、人質を殺害してしまうなど手口が荒っぽすぎます。

池上 12月4日、イスラエル軍の報道官が今回のガザへの戦闘は非常にうまくいっていて「ハマスを1人殺すのに民間人が2人しか死んでない」と発言しました。驚きですよ。ちょうどガザで1万5000人が死亡しているタイミングでの発言です。人口密集地で戦う時には、民間人にものすごく多くの犠牲者が出る。ところが「1対2」程度で済んでいる。こういう説明です。

ーー日本人には、中東のイスラム過激派が複雑すぎてわかりづらいのですが‥‥。

池上 ハマスはスンニ派ですが、元々は貧しい人たちのために医療活動や、学校を作ったりするエジプトのムスリム同胞団のパレスチナ支部です。その後、反イスラエルになった。一方、ヨルダン川西岸のファタハは穏健派と呼ばれますが、1993年の「オスロ合意」でパレスチナ自治区ができた時、西側諸国から莫大な援助が出たとたん、幹部は外車や別荘など腐敗に手を染めた。一方、ハマスは過激だが腐敗していない点でガザの人々の支持を得ていたのです。ところが、そのハマスをイランが全面的に支援をし、莫大な援助金が入るようになった。その結果、ガザではハマスの戦闘員は死に物狂いで戦っていますが、政治部門はカタールの5つ星ホテル暮らし、子供はインターナショナルスクールに通わせるなど優雅な暮らしぶりなんですよ。

ーーガザへの攻撃が終わった後はどうなるでしょう?

池上 正直、今のところ出口が見えません。つまり、ガザはイスラエルが徹底的に破壊したわけですが、そこには220万人の住民が生活しています。その面倒を誰が見るのか決まっていないのです。以前、イスラエルがガザを占領した際、過激派によって自軍の兵士に大きな犠牲が出ています。なので、イスラエルはさっさとガザから撤退したいわけです。かといってファタハには統治能力がない。じゃあ、誰が代わって統治するのか、という問題が出てくることになります。

ーーせっかく戦闘が終わっても、ガザには廃墟が残るだけとは‥‥。

池上 それにイスラエルのネタニヤフ首相自身が収賄で刑事被告人となっています。イスラエルの国民の大半が、もうネタニヤフにはウンザリだ、そもそもハマスの攻撃を予知できなかったと言って、政権から引きずり下ろそうとしている。だけど戦闘中はそれができないわけです。つまりネタニヤフにしてみれば、この戦闘を長引かせれば長引かせるほど、自分の地位は安泰なわけです。

ーー中東はまだまだ混乱が続きそうですね。

池上彰:1950年、長野生まれ。73年NHK入局。94年より「週刊こどもニュース」を担当。05年に退局後は、フリージャーナリストとしてテレビ出演・執筆活動を続けるほか、名城大教授など複数の大学で学生を指導。

(つづく)

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