──今年上半期は、ヨーロッパでも選挙が続きました。フランスでは極右政党が躍進し、イギリスでは14年ぶりの政権交代が実現しました。
池上 フランスはマクロン政権下、経済は悪いわ、移民が入ってくるわという現状がありました。その国民の不満の受け皿となったのがマリーヌ・ルペンの国民連合だったわけです。そもそもこの国民連合は、以前は国民戦線と言ってました。ルペンの父親が始めたもので、反ユダヤで、移民を絶対受け入れないと主張していました。ところが、娘が党首になった時に、反ユダヤを唱えた父を除名したんです。これを「脱悪魔化」と言うんですけど、さらに今回の選挙の場合、これまでは移民反対だって言っていましたが、28歳のイタリア系の移民ジョルダン・バルデラを新しい党首に据え、EU以外からの移民はダメという言い方になった。つまりEUの中からだったら入ってきてもいいというわけです。この脱悪魔化が功を奏して、国民連合はそんなに危険じゃないと票を集めたわけなんです。
──移民問題は何もアメリカだけの問題じゃないのですね。
池上 難民条約を結んでいる国はみんなとりあえず一旦受け入れるわけですよね。それをなんだかんだ言って受け入れない国があります。さぁどこでしょう?
──もしや、ひょっとしたら‥‥日本?
池上 はい正解。日本なんです。ヨーロッパの極右は移民を受け入れるなって言っていますが、その中で「日本は移民を受け入れていない素晴らしい国だ。我が国もそうすべきだ」と理想の国として名指しするんです。以前、アメリカの白人極右組織KKKの取材に行った際にも、「我々が目指す理想の国家を作っている、移民を一切受け入れない日本人だ」と紹介されてしまいました。
──日本としてそこはホメられたくないところです。イギリスの場合はどうでしょう?
池上 イギリスは保守党の現状が不満だとか、今どんどん物価が上がってインフレで生活が苦しくなってることに対する反発があって、その選択肢が労働党になったわけです。イギリスは労働党で左に、フランスは極右政党で右になったって見えるでしょう。見た目は反対に見えますが、要するに現状に対する不満なんですよ。
例えばイランでも、大統領選挙が行われました。保守の強硬派ばっかりだと、国民が嫌だから投票に行かず、投票率はぐんと下がってしまう。だから、投票率を高くするために絶対当選しないだろうという改革派を1人入れたんですよ。そしたら、なんとその人が当選しちゃったわけですよ。
一見、左とか右に見えますけど、そうではなく、現状に不満の時の選択肢がイギリスは左で、フランスは右だったってことなんですね。
──世界中で現状に対する不満が噴出した形ですが、日本でも国民の不満は渦巻いています。次回は、日本がどうなるのかご意見をお聞かせください。
池上 はい、やってみましょう。
池上彰(いけがみ・あきら)1950年、長野生まれ。73年NHK入局。94年より「週刊こどもニュース」を担当。05年に退局後は、フリージャーナリストとしてテレビ出演・執筆活動を続けるほか、名城大教授など複数大学で学生を指導。
*週刊アサヒ芸能8月15・22日号掲載