池上彰が「激動の24年」をズバリ解説(上)トランプ再選ならガソリン自動車が復権

 沸騰しているのは日本のみにあらず! ウクライナ、中東を舞台にした2つの戦争がドロ沼化する中、この流れを一変するファクターとなるのが米大統領選だ。銃撃事件で「もしトラ」に当確ランプと思いきや、ハリス旋風が吹き荒れて‥‥唸りを上げる世界の地殻変動。ジャーナリスト・池上彰がズバッと解説する!

──7月の銃撃事件で大統領選が一気にトランプ候補優勢に傾きました。このままトランプ政権になったらどうなるのでしょう?

池上 はい。アメリカは政権が代わると役所のトップ5000人が入れ替わります。ところがトランプ陣営はその下にいる官僚約5万人をクビにする計画を立てています。その理由は首都ワシントンにいる官僚こそが、自分の政策遂行を妨害する「ディープステート」(影の政府)の犯人たちなのだという陰謀論です。すでに陣営は代わりになる役人候補を募集して8000人程度が集まっています。

──本当にそんなことが可能なんでしょうか?

池上 ですよね。プロの役人が全員いなくなり、トランプへの忠誠心だけの素人でアメリカの政府を動かすなんて無理です。ですからさすがのトランプも自分が言ったわけじゃない、と言い始めました。ただ、本当に大統領になったらどこまでやるのかはわかりません。すべての輸入品に10%の関税をかけた上、中国からの輸入品には60%の関税をかけるとも言っています。他にパリ協定からの離脱もある。これまで、バイデン政権では石油や石炭の採掘をかなり規制していたんですが、その規制を全部やめるというわけです。

──地球温暖化なんか知ったことではないというわけでしょうか?

池上 どんどん掘って掘って掘りまくれ、という言い方でしたね。反対に、電気自動車なんか作らせないと言っています。自動車の労働組合のところに行って、これまで通りガソリン自動車を作れと言うわけです。その途端、テスラ社のイーロン・マスクが突然トランプに莫大な献金をしたわけです。

──トランプの勝ち馬に乗ろうとしたわけでしょうか?

池上 というより、トランプが当選して電気自動車が売れなくなったら困るからですよ。バイデン政権は電気自動車に優遇策を取っています。トランプに優遇策を続けさせるために、莫大な献金をしたわけです。さらに言えば、トランプは石油産業、石炭産業の経営者たちを集めて献金しろと迫った。もう合法的な賄賂の要求ですよ。

──大統領選の争点は移民問題とも言われていますが。

池上 6月末のテレビ討論会で、トランプはバイデン政権になったことで、世界中のテロリストがアメリカに入ってきているって言ったんですよ。本当にそうなったらどれだけ世界が平和になったことでしょう。

 かつて、トランプ政権では、移民は入れない、送り返すと言ったもんだから、移民があんまり入ってこなかった。ですが、バイデン政権は、移民に寛容であるべきだと言ったものですから、不法移民が入国し、その数は毎日1万人とも言われてます。

 一時フロリダ州やテキサス州の共和党知事が、不法移民を全部バスでニューヨークに送りつけたことがある。ニューヨーク州は民主党の知事で、移民は受け入れるべきという考えです。それならばお前のとこで責任を持てと言って、次々に南米あたりからの不法移民をバスで移送したんです。もちろん難民として認められれば永住権が得られますが、その間、仕事をするわけにもいかない。するとケンカや強盗をしたりと治安が悪くなったわけです。

 ということもあり、さすがに、バイデン政権も渋々と、移民に対して厳しい態度を取り始めました。

──そのバイデンがまさかの出馬撤退。後継指名を受けたカマラ・ハリス副大統領が注目を浴びています。

池上 トランプは自分より若く、女性で黒人アジア系のハリスを警戒しています。今やアメリカはハリス旋風が吹いています。これまでハリスは、女性の人工中絶の権利を守るべきだと全米を回り、若い女性たちの支持を広げてきました。一方、この人工中絶の問題が大きなテーマになると、トランプは最初は中絶を全部禁止すべきだと言っていたのに、それでは選挙で負けてしまうと考え直し、中絶の権利は各州の判断に任せるべきだという言い方に変えたのです。

 日本では中絶が認められているので、アメリカの論争はピンと来ないかもしれませんが、アメリカでは選挙の行方を左右しかねない問題なのです。

──ハリスは1日で8100万ドル(約127億円)も献金を集めました。隠れハリス支持者がいる?

池上 トランプを当選させたくないけれど、バイデンも嫌だという人が大勢いたのです。この人たちが、「ハリスならトランプを阻止してくれそうだ」と盛り上がっているのです。

──今後もアメリカ大統領選から目が離せません。

池上彰(いけがみ・あきら)1950年、長野生まれ。73年NHK入局。94年より「週刊こどもニュース」を担当。05年に退局後は、フリージャーナリストとしてテレビ出演・執筆活動を続けるほか、名城大教授など複数大学で学生を指導。

(中につづく)

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