7月13日、米ペンシルベニア州の集会で20歳の男にライフルで狙撃されたトランプ元大統領。銃弾は右耳を貫通。あと数ミリ違えば、命の危険に晒される可能性が大きかったことから、シークレットサービスの対応を巡り、波紋が広がっている。
今回の銃撃事件を受け、各国首脳からは政治的暴力を非難する声明が相次いでいるが、そんな中、ロシア外務省報道官はSNSで、米国はウクライナ支援ではなく「米国内の法と秩序を守るため、警察や他の機関に資金を充てた方がよいのではないか」と皮肉っている。
実際「世界の警察」と言われ、世界情勢に大きな影響を及ぼしてきた米国の大統領は、これまでにも、たびたび暗殺の標的にされてきた。
「第16代リンカーン大統領は1865年、ワシントンで観劇中に奴隷制を支持する俳優に撃たれ、翌日に死亡。81年には第20代の、ガーフィールド大統領が就任からわずか4カ月後にワシントンで銃撃され、同氏も約2カ月後に亡くなっています」(国際部記者)
さらに1901年には、第25代マッキンリー大統領が、ニューヨーク州の博覧会会場で狙撃され、8日後に死亡。犯人は無政府主義者で、この事件を境にシークレットサービスが大統領警護職務を担うことになったとされる。
「それでも、1963年にはテキサス州ダラス市内をオープンカーでパレードしていた第35代ケネディ大統領が狙撃されるという事件が起こり、それが全米に生中継されるというセンセーショナルな出来事が起こりました。そして、第40代レーガン大統領も1981年、ワシントンで頭を銃撃され、手術により奇跡的に一命を取り留めたものの、これまで4人の現役大統領が暗殺されていたことからも、いかに米大統領が日常的に命の危険にさらされているかがわかるはず。トランプ氏は現段階ではまだ大統領候補ですが、今回の暗殺未遂事件により、全米の誰もが過去の事件を思い返したことは間違いないでしょう」(同)
むろん、米国の大統領に限らず、プーチン大統領や金正恩総書記といった、いわゆる独裁者と言われる人物たちも同様で、常に暗殺とクーデターの危険に晒されている彼らにとっても、情報収集とセキュリティー対策は最大の課題だとされている。
「暗殺の手口が狙撃だとは限らない。そのため、プーチン氏にせよ、正恩氏にせよ、彼らは衣食住すべてにおいて、いつどんな形で狙われてもいいように万全を期しています。たとえば、食事にしても自分が口に入れる前には必ず毒見をさせ、移動は鉄板が敷き詰められた装甲車並みの車を使用。複数の影武者を用意し、側近と言えども、少しでも不審な噂がたてば、即刻処刑してしまう。彼らはそんな対策を取りながら暗殺から逃れてきたというわけなんです」(同)
そんな独裁者の一人として、繰り返される暗殺危機を回避し、2016年11月に90歳で亡くなったのが、キューバ革命を率いた「反米帝国主義のカリスマ」として知られる、フィデル・カストロ前国家評議会議長だ。同氏は、暗殺されそうになった回数が最も多い人物として、ギネスブックに掲載されているが、病気療養のため議長職を暫定委譲して一線を退いた2006年までの間に、計画を含めなんと638回も暗殺未遂に晒されたというから驚く。
「前議長は1959年に親米のバティスタ独裁政権を打倒。その後、米国の事実上の支配下にあったキューバを解放し、歴代の米政権と激しく対立した人物。そのため、米中央情報局(CIA)から執拗に付け狙われ、ライフルによる狙撃は日常茶飯。なかには靴に爆弾を仕掛けたり、葉巻に毒物を仕込んだりされたこともあったそうですが、毎回すんでのところで危険を回避、生き延びてきたとされています」(同)
そんなことから、プーチン氏もカストロ氏に心酔。かつてカストロ氏と会談したプーチン氏は、同氏に「どうやって暗殺から逃れてきたのか」と質問。それに対しカストロ氏は「(暗殺されない理由は)常に自身の安全について、私が個人的に対処していたからだ」と答えたとされる。はたして、プーチン氏がこのアドバイスをどう捉えたのかはわからないが、今回のトランプ氏暗殺未遂事件によってカストロ氏の生き様にも脚光が集まりそうだ。
(灯倫太郎)