5期目の政権運営を開始したロシアのプーチン大統領は今後、ウクライナでの攻勢をエスカレートさせていく方針だ。3月末には新たに15万人を追加動員する大統領令に署名。首都キーウの掌握、ゼレンスキー政権の打倒、そして親露政権の発足という野望に向けて進んでいきたいところだろう。5月16日からの中国への公式訪問には、その計画遂行のため結束を確認する狙いがある。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、幾度も米国からの支援がなくなれば戦争に負けると嘆いてきたが、米議会上院で予算案が通過し、支援が今まさに急ピッチ行われている。
そのような中、ロシア外務省報道官は5月8日、フランスがウクライナに軍隊を派遣すれば、ロシア軍の正当な標的になると警告している。この発言の背景には、物議を醸したマクロン大統領の発言がある。
マクロン氏は2月末、西側諸国の地上部隊をウクライナへ派兵する可能性を排除するべきではないと、これまでの一貫した支援から一歩踏み込んだ発言をした。NATOのストルテンベルグ事務総長やドイツのショルツ首相は、NATO加盟国の兵士が戦場に派遣されることはないとマクロン発言を根本的に否定したが、オランダやリトアニアなど一部のNATO諸国の中には否定しない姿勢を示す国もあった。
仮にフランスがウクライナに地上軍を派遣すれば、ロシアの攻撃対象になることは間違いない。ロシア外務省報道官の警告は、フランスを改めて強くけん制することで地上軍の派遣を停止させたいという狙いがある。ウクライナでの戦況で、ロシアとしても敵を増やしたくないのが本音なのだ。
一方、マクロン発言の真意はどこにあるのか。そこには秋の米大統領選がある。トランプ氏は、ウクライナへの支援を最優先で停止する、戦争を24時間以内に終わらせる、国家防衛に十分お金を使わないなら米国は欧州を守らない…などと発言している。マクロン氏の中には、トランプ再選によって米国はウクライナから手を引き、欧州とロシアが正面から向き合うことになるとの懸念がある。それがウクライナ派兵を否定しない考えにつながっているのだ。
(北島豊)