ロシアは言わずと知れた国連の常任理事国である。したがって、国連安保理から制裁を受ける北朝鮮に対し、これまでは武器弾薬を含め物資を堂々と取引することは控えてきた。そのため、船を使った違法取引である「瀬取り」、あるいは貨車による同様の手口で秘密裏に取引が行われてきた。
ところが、「内々だった取引」方法があからさまに変化したのは、昨年9月の金正恩総書記によるロシア訪問直後から。北朝鮮から貨物列車に積み込まれた武器弾薬がロシアに送られ、それをアメリカのレーダーがキャッチ。その後も、ウクライナとの戦争で、北朝鮮製の武器弾薬が使用されていることなどが次々に発覚し、西側諸国も、両国のズブズブな蜜月関係を周知の事実として捉えられるようになった。
そんな中、2月13日の朝鮮日報が「300人以上の北朝鮮労働者がロシアのハサン駅を経て、ウラジオストクに到着したことを現地筋が確認した」とする韓国統一研究院の先任研究委員の談話をもとにした記事を掲載。物資取引だけでなく、ついに安保理に違反する労働者派遣も堂々と行うようになったことに大きな波紋が広がっている。
「報道によれば、北朝鮮からの労働者300人が、鉄道を利用しロシアのウラジオストク郊外に到着したのは2月5日のこと。北朝鮮労働者の雇用は国連安保理による対北朝鮮制裁決議違反で、安保理では2017年12月、北朝鮮から派遣された労働者を24カ月以内に全員送り返すよう定め、世界各国に通達しました。結果、多くの国が労働者らを本国に送り返す中、ロシアだけは、留学や観光、文化交流用目的として入国ビザを発給し続けてきた。ただ、さすがに一度に数百人単位ということはなかったようです。つまり、報道が事実であれば、この300人の派遣を皮切りに、今後どんどん北朝鮮労働者がロシア入りすることは間違いない。国連もなめられたものです」(北朝鮮ウオッチャー)
ミサイル開発のために、喉から手が出るほど外貨が欲しい北朝鮮。一方、ロシアもかねてから北朝鮮の労働力を欲していたと言われるが、
「北朝鮮の労働者は勤勉で統率がとれており、賃金も安く使えるため、ロシアにとって彼らは願ったり叶ったりの存在なんです。一部情報筋によれば、9月に行われた首脳会談の際、両国間では、すでに北朝鮮の建設作業員を同国も国家承認しているドネツク・ルハンシクへ派遣することが合意されていた、という情報もあるようです」(前出・北朝鮮ウオッチャー)
さらにロシア側は北朝鮮に対し、ロシア占領下にあるウクライナ東部ドネツク州とルハンスク州に「外国使節団」を設置するよう求めているという未確認情報もあるが、
「名目は州内のインフラ施設建設作業だとしていますが、兵士不足にあえぐロシアでは刑務所から囚人をスカウトするも、それでも足りず外国人傭兵をどんどん募っている状況ですからね。派遣された北朝鮮労働者が、いざフタを開けてみたら前線に送られる兵士だった、なんていうことも絶対にないとは言えないということです」(前出・北朝鮮ウオッチャー)
蜜月ぶりを隠すことをやめ、堂々と取引を開始した両国。ウクライナの最前線に北朝鮮兵士が参戦する日も近いかもしれない。
(灯倫太郎)