GAFAなどのアメリカの巨大IT企業は、株価の時価総額もあまりに巨大なので、マイナス要因が囁かれると、一夜にして数兆円単位で株価が下がることもしばしばだ。そしてまた今年に入って、一気にアップルの時価総額23兆円が吹っ飛んだ。金融機関が相次いで同社の投資判断を引き下げたからだ。
「まずは1月2日に、イギリスの金融大手のバークレイズが投資判断を引き下げ、4日にはアメリカ投資銀行大手のパイパー・サンドラーも同じく引き下げました。するとアップルの株価は連続して下落。今年に入ってわずか4日で、約23兆4000億円が失われました」(経済ジャーナリスト)
格下げの理由としては、アップルの総売り上げの52%を占めるiPhoneがもうそれほど売れることはなく、特に中国の景気低迷がこれに重なり、またもともとはアップルは株価収益率が高かったから、これらの事情を鑑みて投資判断を見直した結果だという。確かに、これだけ進化したスマホにより便利な機能を搭載するのは不可能と言った「スマホ限界説」もあって、このところの新作iPhoneに見られるカメラ機能の充実といったマイナーチェンジぶりを見れば、引き下げの理由も分かる。金融機関の判断なので、現在のファンダメンタルが重視され、“見込み”は反映しづらいからだ。
だが企業サイドに立てば、アップルの場合はまだAIには本格的にタッチしていないから伸びしろはあるようにも思えるし、なかなか全貌を現さないアップルカーの自動運転などもある。またiPhoneの小幅な進化に対し、24年はウェアラブルの充実が注目されているという業界事情もある。特にアマゾンやグーグルとの競争激しいヘルスケア分野で、アップルウォッチに期待が集まっているのだ。
「アメリカでは、アップルがヘルスケア分野でのIT事業の先駆者であるPeloton社を買収する可能性が高いとの報道がもたらされています。Peloton社はエクササイズバイクやランニングバイクのハードを販売する会社ですが、マシンを通じて動画アプリでフィットネスのレッスンを受けられるサブスクサービスを展開し、300万単位の会員を擁しています。言ってみれば、自宅に居ながらジムに通ったようなサービスを受けられるわけですが、端末を通じたヘルスケアサービスの提供は、アップルのウェアラブルと親和性が高く、買収に成功すれば大きく可能性は広がるでしょう」(同)
アップルは14年にヘッドフォンブランドの「beats」を買収していて、当時は「アップルがなぜヘッドフォンを?」と周囲を驚かせたものだが、今回の買収話で話はつながる。
また恒例の秋の新作発表では、既にアップルウォッチに高血圧や睡眠時無呼吸症候群の検知機能の搭載が予想され、AirPodsでは新たな補聴器の機能搭載も期待されている。これらヘルスケア事業が23兆円を取り戻すことになるか。
(猫間滋)