池上彰が「世界の危機」をズバリ解説!(3)トランプ再選でウクライナ戦争は終わる

ーー2024年は問題の米大統領選が控えています。

池上 ここにも、イスラエルとハマスの問題が絡んできます。というのも、イスラエルとハマスの戦闘の前までは、バイデンとトランプの支持率は、ほぼ拮抗していたんです。ところが、ガザであれだけ大勢の民間人が殺される映像が出てくると、バイデンを支持した民主党のリベラルな人たちも、「あまりにイスラエルはひどい、やりすぎだ」となり、さらに「そのイスラエルを支援するバイデンにはがっかりした」となる。特に前回の選挙では、Z世代と言われる若者たちが大勢バイデンに投票したのですが、今や、このZ世代がバイデンに幻滅している状態です。とはいえ、トランプには絶対投票しませんが。11月の選挙ではトランプは岩盤支持によって前回と同じだけの票を取るわけですね。これに対し、バイデン支持者は大量に棄権となり、得票数が激減しそうです。結果的にトランプが再選されると。

ーーまさか、トランプがカムバックする事態になるなんて!

池上 つまりイスラエルとハマスのことがなければ、11月までギリギリどっちになるかわからないという状態でしたけど、今選挙をやればトランプ圧勝ですよ。

ーートランプは裁判をいくつも抱えていますが?

池上 裁判になればなるほど、トランプ支持者は、全面的にトランプを支持します。おまけに、起訴されるたびに政治献金が大量に集まっている。だからトランプは、これはバイデンの陰謀だ、民主党の陰謀だと言っていればいいのです。

ーーもしトランプが再選されたらどうなるのでしょう?

池上 トランプは自分が大統領だったらウクライナの戦争は1日で止めさせてみせるって言っています。なにしろ支援を全部やめろと言っているわけですからね。ロシアに降伏しろと言うでしょ。あるいはNATOから脱退だってあるかもしれません。なんでヨーロッパのためにアメリカが金出すんだっていう考えですから。

ーー昔のモンロー主義に戻るってことでしょうか。

池上 その通りです。昔というより、元々アメリカはモンロー主義の国なんですよ。だから第一次世界大戦でも、ウィルソン大統領が国際連盟を作ろうって言ったのに、議会は反対。アメリカは国際連盟に入らなかったわけです。第二次世界大戦だって、ヨーロッパでいくら戦争が起きても、アメリカは参戦しようとしなかった。日本が真珠湾攻撃をしたことによってようやく参戦したわけです。だから、英チャーチル首相は、真珠湾の一報を聞いて「これで我々は勝った」と大喜びしたわけです。

ーーアメリカは「世界の警察」というわけではなかったわけなんですね。

池上 本来はモンロー主義なんだけど、第二次世界大戦後、東西冷戦と言って、ソ連というアメリカにとって大変な脅威の国家ができたため自分の国を守るべく、ソ連包囲網で周りの国を支援していたというのがその実態です。だから、トランプは、本来のアメリカファーストに戻っているということですね。

ーーアメリカ第一主義に戻るとどうなりますか?

池上 トランプの1期目の終わりに、在韓米軍を撤退させるって言ってたことを覚えているでしょうか。当時は文在寅大統領でしたが、「あんな態度を取ってる韓国をなんでアメリカが守らなければいけないんだ」と怒り、在韓米軍を撤退させると言い出した。さすがに当時の側近が必死に止めました。その時、「では2期目にやったらどうですか」と言うと、トランプがニヤッと笑ったという。

ーー次は在日米軍に対しても、日本にもっと軍事費を払えと迫りそうです。

池上 例えば、アメリカは台湾を守るって言っています。台湾を守るための軍隊は、在韓米軍と在日米軍です。その在韓米軍がいなくなったら、果たして台湾を守れるのかどうか。それだけじゃありませんよ。トランプなら「なんであんな小さな島を守るためにアメリカが金出すんだ」って言い出しかねない。これを「もしドラ」ならぬ「もしトラ」問題と言います。

ーープーチン、ハマスの次はトランプで怯える年にならないことを願うばかりです。続きは次号でお願いします。

池上彰:1950年、長野生まれ。73年NHK入局。94年より「週刊こどもニュース」を担当。05年に退局後は、フリージャーナリストとしてテレビ出演・執筆活動を続けるほか、名城大教授など複数の大学で学生を指導。

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